米MSNBCの政治コラムストは、11日に掲載した論説で、大ヒット作品「トップガン・マーヴェリック」は「たちの悪い」プロパガンダ映画だと批判。アカデミー賞を与えるべきでないと主張した。
35年ぶりに公開された続編は、米国で昨年、「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」に次ぐ興行成績を記録。パンデミックで客足が遠のいた劇場に観客を取り戻すのに貢献した。ロサンゼルスで12日に開催される第95回アカデミー賞では、作品賞や脚色賞など6部門でノミネートされている。
トム・クルーズら俳優陣が、実際に訓練を受け限界に挑んだ迫力の航空アクションが話題を呼んだ続編について、コラムニストのジーシャン・アリーム氏は、スーパーヒーロアニメやCGアニメ全盛の時代にあって、「新たな息吹」を与えた作品であると認める一方で、悪質なエンターテイメントだと主張した。
同氏は、たちの悪さについて、作品は「米国の戦争マシーンを美徳と興奮の象徴として再び受け入れることへの回帰」を誘う「有害なノスタルジア」だと主張。「終わりなき戦争への愛をライブアクションの礼賛に忍び込ませている」と非難した。
具体的には、映画は「文字通りのプロパガンダ」であるとし、軍の協力と引き換えに、プロデューサーは、国防総省が独自の「重要な論点」を脚本に盛り込むことに同意したと指摘した。
「ジンゴイズム(好戦的な愛国主義)」への協力は、脚本の随所にあらわれているとした上で、トム・クルーズ扮するマーヴェリックが映画の前半に、謎の機体「ダークスター」をテスト飛行するシーンに言及。マーヴェリックは「巨大な防衛予算を永遠に増やし続けるというアメリカの超党派の精神を体現」しており、「軍産複合体のために自爆しそうになる」という偉業まで成し遂げたと皮肉を述べ、オープニングからすでに「軍産複合体を擁護するためのばかげた礼賛」だと非難した。
さらに、マーヴェリックが訓練、監督を頼まれた「ならず者国家の秘密のウラン濃縮施設」への攻撃は、「イランの核開発という現実的なシナリオ」を示唆していると指摘し、「アメリカの権力に対抗する脅威が顕在化する前に武力で排除しようという、ネオコンの提唱する予防戦争」を映画は呼び覚ましているとした。
マーヴェリックが、かつて事故で失った親友の息子ブラッドリー・“ルースター”・ブラッドショーに「考えるな、行動しろ」と語りかけるシーンについては、裏を返せば「自分が属する組織の目的について、批判的に考えることを停止するよう生徒に求めている」とも捉えられると主張。「正当性や効果を考えずに他国への介入に熱心」な、米国の外交政策の当局者らのスローガンに相応しいと述べた。
「アカデミー賞で落選することを願う」と述べ、「堂々と大衆を戦争に仕向けることなく、スリリングなアクション映画を作ることは可能」と主張した。
「トップガン:マーヴェリック」のノミネートを巡っては、ウクライナ人の団体からも、アカデミーに見直しを求める声が上がっている。
国外のウクライナ人やコミュニティを支援する非政府組織「ウクラニアン・ワールド・コングレス」は7日、映画芸術科学アカデミーに宛てた書簡で、トップガンの制作に、ウクライナの制裁対象となっているロシアのオリガルヒが資金を提供したとし、ロシア政府による「検閲につながった可能性がある」と主張。「ハリウッドは、ロシアの資金が親ロシア的な検閲に使用されることに注意を怠ってはならず、透明性を確保しなければならない」と述べ、トップガンを参加対象から除外するよう求めた。
第95回アカデミー賞は、本日12日、ロサンゼルスで現地時間午後5時からスタートする。