著者:Melania Trump
出版社 : Skyhorse (2024/10/8)
発売日 : 2024/10/8
言語 : 英語
Kindle、ハードカバー
共産主義体制下のスロベニアで過ごした幼少期、ヨーロッパ、ニューヨークファッション業界への進出、ドナルド・トランプとの出会い、ホワイトハウス時代の舞台裏から夫の暗殺未遂事件まで。2024年大統領選を前に、メラニア夫人が最新エピソードや豊富な写真を交えて本音を語る。普段メディアで語ることの少ないファースト・レディの意外な一面を知る一冊。
Melania:Key Takeaways
トランプ氏とメラニア夫人 似たものコンビ
本書には一貫して、メラニア・トランプの確固とした自信と自己への愛着が溢れている。
例えば、勉強に「純粋な情熱」を抱いたとする幼少期の自分を、「子供として、すべての自分のプロジェクトにおいて組織化と秩序、方法論的アプローチの強力な感覚を示した」と称賛し、「私の子供時代の経験は、ハードワークと献身、自己認識に価値を置く規律ある野心的な個人を形成した」と締め括る。
17歳で初めて経験したファッションモデルの仕事では、カメラマンのスタジオを必要な設備が「すべて欠けていた」とけなす一方で、「私の自然な美を輝かすことができた」と自己評価を下す。
トランプ氏の自信と自画自賛は言うまでもないだろう。
ニューヨークに渡った夫人はついに自分と共通する相手を見出す。
「私はドナルドの組織力、考え方、彼の存在のすべての側面において明らかなセンスの良さに惹かれた」と述べ、「私たちには多くの共通点があり、疑いの余地はなかった」と振り返る。
なお、トランプ氏との交際の経緯について、当時妻子があったことにはほとんど触れない。もちろん、二人を引き合わせたと豪語していたジェフリー・エプスタインは一切登場しない。この点、多くの読者が知りたかったであろう。
セレブ的な嗜好もトランプ氏にひけをとらない。
2005年1月にフロリダで執り行われた結婚式では、『プラダを着た悪魔』でお馴染みのヴォーグ誌の編集長、アナ・ウィンターの助力を得て、自ら「傑作」と称える1500の真珠とラインストーンをあしらったディオールの特注ウェディングドレスを用意。披露宴は、クリントン夫妻からシャキール・オニールといった名だたる有名人500人を招き壮大に執り行った。
トランプ氏顔負けのメディア嫌い
メラニア夫人とメディアの確執が決定的に深まったのは、2016年大統領選の共和党大会で噴出したスピーチ盗用騒ぎだった。
ミシェル・オバマ氏の演説と酷似しているとして批判を受けた夫人は、過ちを半ば認めつつも、「このような重要な演説においては、選挙運動の専門家が必要なことをなんでもしてくれるだろうと思っていた」「チームが任務を果たすことに失敗したことを知り、私は深い裏切りの感覚に満たされた」とスタッフ批判を展開する。
続けて、「共和党全国大会の演説問題は、すでに悪化していたメディアとの関係を劇的にエスカレートさせた。彼らの容赦のない批判は、敵意に突き動かされ、釈明の余地を残さなかった」と心境を明かし、「今日、ほとんどのジャーナリストは事実を報じることではなく物語を作り出すことが主な目的だと信じている。結果、ジャーナリズムの誠実さは崩壊したのだ」と烙印を押す。
結果として、「この選挙活動の年は、対メディアの姿勢を設定することとなった。彼らは私を公平に扱うことはない」と決意を語る。
さらに、2020年大統領選についてトランプ氏さながらの言葉を交えて批判を展開する。
「メインストリームメディアは、夫に対するヘイトと嘘のキャンペーンを倍増し、ロシアのデマからウクライナまで、あらゆる虚偽のストーリーを広めた」と非難。「奇妙なことに野党に有害となるかもしれないニュースを報道することには全く関心がなかった」と、バイデン氏の息子ハンター氏のラップトップ騒動にも言及した。
さらに、「選挙は1日で行われ、深夜に締め切られるべきだ~それこそが公平な選挙のやり方だ。何日も票を数えてはならないが、それが彼らがしたことだ。めちゃくちゃだ」と、投票不正説をほのめかした。
政治信条については、あまり触れていない。ただし、出版直後にメディアで話題に上ったように、女性の妊娠中絶の権利をめぐっては「女性の自然の権利」であると断言するなど、夫との違いも明確にした。
一方、トランプスジェンダーの女性スポーツへの参加は、競技の公平性を害し、女性アスリートの夢を破壊するといった「不必要で避けることができる結果」をもたらすと述べ、きっぱりと否定した。
実業家メラニア
モデルとしてのキャリアは有名だが、あまり聞くことのない実業家としてのエピソードは興味深い。
2009年にデザインを手がけたジュエリーコレクション、それに続くキャビア入りクリームが話題になったスキンケア事業。さらに後半では、一般人に戻ってからスタートしたNFT事業も紹介する。夫とともにキャンセルカルチャーの憂き目にあったエピソードを交えつつ、ブロックチェーン技術によってプラットフォームからのキャンセルに対抗する手段を得たと説明。自らの「革新的なアプローチ」は「この分野のパイオニアと位置付けられている」と、成功したアントレプレナーシップのような顔も見せる。
ファーストレディとしての復帰が決まった現在、夫人がどのような活動をするか不明だが、「より有利な状況下で優れたスキンケア製品を市場に投入する機会を願っている」と述べるなど、実業家としてのキャリアを望んでいることは本書から明らかだと感じる。
また、ホワイトハウス時代に主導した児童の精神衛生やネットいじめの問題に焦点を当てた啓蒙キャンペーン「Be Best」に対する想い入れには、社会活動家としての決意も垣間見える。
このほか、テキサスの移民施設を訪れる際に着用した「I Really Don’t Care」ジャケット騒動、1月6日議事堂襲撃事件の最中に声明発表を見送った問題について、夫人の側からの反論が記されている。
全体としては、先述のジェフリー・エプスタインとの関係やトランプ氏のポルノ女優不倫口止め料事件、二人の夫婦仲といったエピソードに触れておらず、もの足りない印象が残るものの、メディアに出演する機会が少なく憶測ばかりが飛び交う夫人のキャラクターを知る上では貴重な手掛かりになる。夫にも負けない性格は、ファーストレディの在任中に話題になった「Sad Melania」や「Free Melania」といった世間の同情的な声が、大きなお世話だったことを示している。