「逝くのは一瞬」タイタン参加の専門家、生前に語ったこと

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潜水艇「タイタン」の事故で命を失ったフランス人海洋探検家のポール・アンリ・ナルジョレ(Paul-Henri Nargeolet)氏(77)は、自分がプロジェクトに関与することで、潜水艇に起こりうる「悲劇を回避」しようとしていたという。

フランス海軍に属していたナルジョレ氏は、タイタニック号の専門家で、過去に30回以上、111年前に沈没した豪華客船の残骸を訪れていた。映画『タイタニック』を監督したジェームズ・キャメロン氏は、同氏を「伝説の潜水艇パイロット」と称している。

ナルジョレ氏の友人で、潜水艇の設計や検査を行う「トリトン・サブマリンズ」の代表を務めるパトリック・レイヒ氏は雑誌ニューヨーカーで、タイタンに関わらないよう、警告していたと明かした。

事故の数カ月前、レイヒ氏はナルジョレ氏に「あの男(運営会社オーシャンズゲートのストックトン・ラッシュCEO)がやっていることを正当化することだ」「暗黙に支持している」と忠告したほか、ラッシュ氏は「人々を惹きつける」ため、ナルジョレ氏を利用しているなどと、率直に伝えていた。

ナルジョレ氏は「逝く時がきたら、それは手っ取り早い。一瞬だ」と答えたという。レイヒ氏が「死ぬ覚悟があるってのか?それでいいのか、PH(ナルジョレ氏のニックネーム)?」と問いただすと、「ちがう、そうじゃない。自分がいることで、悲劇を回避する助けができる」と参加の理由を述べた。

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25年間ナルジョレ氏を知るレイヒ氏は、「彼は、悲劇の中心にいることに気づいた。そんな死に方は、値しない」「本当に素晴らしい人物だった」と声を詰まらせたという。

レイヒ氏は英紙タイムズでも、ラッシュ氏は「PHのようにリスクを理解している人物さえ説得することができた」と述べ、「極めて搾取的」だと非難していた。

18日に消息を絶ったタイタンの捜索を指揮した米沿岸警備隊は、22日、潜水艇の破片を発見したと発表。「壊滅的な破壊」によるものと説明し、5人全員の乗員乗客の生存は絶望的との見方を示した。28日に、海底から引き上げられた残骸から、「遺体の一部とみられるもの」が発見された。

潜水艇の専門家オフェル・ケッター氏はニューヨークポスト紙の取材に、船体の一部は、水圧で内側に激しく崩壊する爆縮により、「ミリ秒」で破壊され、「微塵に砕け散っただろう」と語っている

安全性に疑問の声

ストックン・ラッシュ氏は2009年、オーシャンゲート社を創業。業界で初めて、カーボンファイバー素材を用いた潜水艇を建造し、注目を浴びた。

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Mashup Reporter 編集部
Mashup Reporter 編集部です。ニューヨークから耳寄りの情報をお届けします。