トランプ大統領は5日に行った一般教書演説の中で、「後期人工妊娠中絶」(late-term abortion)を禁止する法案を議会に求めた。
ニューヨーク州は先月、後期中絶の制限を緩和する「リプロダクティブ・ヘルス法案」(性と生殖に関する健康法、Reproductive Health Act)を可決した。トランプ大統領は演説で、「子宮の中で苦痛を感じる子供たちを守りたい。」と述べ、ニューヨーク州議員を「出産直前に母親の子宮から赤ちゃんを引き離すことのできる法律に声援を送った。」と批判した。
また、類似の法案を提出したバージニア州のラルフ・ノーサム州知事を「産後の赤ちゃんを処刑しようとした」と述べ、共和党員から大きな拍手を浴びた。
リプロダクティブ・ヘルス法は、妊娠24週目以降でも胎児に生存する能力が欠如している場合や、患者の生命および、健康を守るために必要な場合は、中絶が許される。
これらの非難に対し、ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ(Andrew Cuomo)州知事は、6日のニューヨークタイムズのオピニオン欄で、新法は「出産直前の中絶や、妊娠第3期(27週から40週)の中絶を全て認めるものではない。」と反論を述べた。
バージニア州で民主党議員が起案した法案は、中絶承認の手続きに要する医師の数を3人から1人に削減するなど、中絶の規制緩和が含まれる。こちらは委員会の中で退けられた。
米国の中絶は合法?
中絶の権利をめぐる裁判「ロー対ウェイド事件」(Roe v. Wade)で1973年、最高裁判所は、中絶を規制する法律は違憲との判決を下した。
裁判所は、胎児が子宮外で生存することができる期間より前は中絶が可能とし、その後も妊娠を継続することで、女性の生命や健康を脅かす恐れがある場合は中絶できると見解を示した。医学的には、24週目以降の胎児は子宮外で生存することができる。
後期人工中絶とは?
妊娠後期とは、医学的用語では41週目もしくは出産予定日を過ぎた42週目を指すが、ニューヨークタイムズによると、中絶反対派は21週目以降を後期としている。
米国産科婦人科学会(ACOG)のバーバラ・レヴィ(Barbara Levy)副会長は「後期中絶の用語に関して、医学的に不正確であり、臨床的な意義はない。」とし「妊娠後期は、41週目を経過する、または出産予定日を過ぎることであって、この時期に中絶は起こりえない。つまり用語としては矛盾している。」とCNNのインタビューに語った。
また、リプロダクティブ・ヘルスのための医師(Physicians for Reproductive Health)団体に所属するジェニファー・コンティ(Jennifer Conti)氏は「妊娠後期は、過激な半中絶派が生み出した言葉で、混乱やミスリードを招き、汚名を増大させるためのものだ。」と非難した。
米国における中絶の割合は?
疾病対策センター(CDC)によると、2015年に妊娠21週目以降に中絶を行った人は、全体の約1.3%で、24週目以降の中絶は1%以下となる。
米国の中絶者数は、2006年から2015年の間に激減しており、2015年には過去最低を記録。2015年は、90%の中絶が妊娠13週目までに行われている。
後期人工中絶に関する州の規定は様々で、中絶の権利を研究するGuttmacher Instituteによると、43州で一定の妊娠期間以降の中絶を禁止している。
現在の最高裁判所判事の構成は、トランプ大統領がニール・ゴーサッチ(Neil Gorsuch)判事とブレッド・カバノー(Brett Kavanaugh)判事が指名し、議会が承認したことで、保守派が多数を占める。
ニューヨーク州のリプロダクティブ・ヘルス法は、ロー対ウェイド事件の判決が覆る可能性を見越し、中絶の権利を保護するため制定された。
後期中絶は2020年大統領選の争点に
一般教書演説が行われる約1週間前、ニューヨークタイムズは、ホワイトハウスの中絶への怒りは、共和党の間で、明確かつ狡猾な政治戦略として歓迎されたと述べている。
後期中絶の禁止は、トランプ大統領が明快なリーダーとして、2020年大統領選で共和党員を集結させるためのものだと指摘した。
全米最大の反中絶団体「生まれる権利を守る全米委員会」(National Right to Life Committee)のキャロル・トビアス(Carol Tobias)代表は、ニューヨーク州とバージニア州の動きに関して、「来年の選挙では、率直に申し上げますと、私が関与することになるでしょう。私たちは、そのままにしておくことはできません。」とタイムズに語っている。
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「ロー対ウェイド事件」判決を覆そうとする政治キャンペーンなど、米国の中絶を巡る現状を描いたNetflixドキュメンタリー「Reversing Roe」