大統領なら海軍特殊部隊を使って政敵暗殺も許される!?最高裁リベラル派判事が究極のシナリオを警告

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1日に出された大統領の免責をめぐる連邦最高裁の判決をめぐって、反対派に回った判事が「悪夢のシナリオ」が起こり得ると激しく反発した。

リベラル派のソトマイヤー判事は、反対意見で「裁判所は実質的に、大統領の周りに無法地帯を作り出し、建国以来続いた現状をひっくり返した。この新たな公的行為の免責は、国家の利益よりも自分の利益、自分の政治生命、金銭的利益を望む大統領にとっては、そこら中に弾を込めた兵器が散らばっているようなもの」と危険性を指摘。「米国大統領は、国内、おそらく世界で一番の権力者だ。多数派判事の理屈によれば、彼がなんらかの公権力を行使する際、刑事訴追から免れることになる」と述べ、究極のシナリオを列挙した。

「海軍シール・チーム6に政敵の暗殺を命じたら?免責だ。権力の座に留まろうと軍事クーデターを組織したら?免責だ。恩赦の見返りに賄賂を受け取ったら?免責だ。免責、免責、免責。大統領に法を犯し、私利私欲のために特権を使い、公権力を悪事のために使わせよう。違法行為でいつか責任に直面するとわかっていれば、われわれが彼に望むほどに彼は大胆で恐れ知らずにならないかもしれないから。これが本日多数派が発したメッセージだ」

さらに「こうした悪夢のシナリオが現実に起きないとしても、私は決して起きないよう願うが、ダメージはすでにおよんでいる」と続け、「大統領と彼が仕える国民の関係は取り返しがつかないほどに変化した。あらゆる公権力の行使において、大統領は今や法を超えた王様なのだ」と警鐘を鳴らした。

2020年大統領選の結果の確定過程におけるトランプ氏の妨害行為に関する刑事裁判で、トランプ氏は、大統領の公権力の行使は、刑事訴追から絶対的に免責されると主張。ジャック・スミス特別検察官が起訴状に申し立てた一連の行為は、公務の中核に当たるとして棄却を求めた。下級審は「元大統領は在任中に犯したあらゆる行為に対して刑事免責の絶対的権利を有していない」として認めず、最終的に最高裁まで争われることになった。

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先週開かれた審理の結果、最高裁は、大統領は「確定的かつ排他的」な憲法上の大統領の権限の範囲内の行為について、「刑事訴追から絶対的な免責」を受けるとともに、全ての公務について、少なくとも免責される権利があるものと推定されると結論づけた。トランプ氏が送り込んだ3人を含む保守派の判事6人が賛成、リベラル派3人が反対に回った。

ロバーツ最高裁長官は、大統領の公式行為と非公式行為を区別するのは困難な場合があるとしつつ、起訴状に申し立てられたトランプ氏の行為のどれが公式にあたるかについて、現時点では下級裁判所の判断に委ねるのが最善であると説明。検討の指針を示すにとどめた。

ロバーツ氏が提示した指針によると、公式か否かを判断する上で、動機が問われてはならない。単なる不正な目的の申し立てによる裁判でさえ、明白な公式行為が司法審査にかけられるリスクにさらされ、憲法第2条(大統領の権限)の保証する利益を侵害するからであるとした。また、裁判所は一般的な法律に違反したという理由のみで、当該行為を非公式と見なすことはできないとした。

トランプ氏の行為については、司法省当局者との協議に関わる行為は絶対的免責されるとしたほか、1月6日の両院合同会議に際し、選挙結果の認証手続きをめぐってペンス副大統領に特定の行動をするよう圧力をかけたと検察が主張しているものは、「これは公式の行為にあたるため、トランプ氏は少なくとも訴追を免れると推定される」とした。ただし、1月6日のペンス氏の役割は上院議長で「行政部門の権限と機能への侵害の危険はないと主張するかもしれない」と反証の余地を残しつつ、「免責の推定を反駁するのは最終的には政府の責任である」と述べた。

トランプ氏がツイッターで支持者らに議会議事堂に向かうよう奨励した問題に関して、「大統領は”国民に、そして国民に代わって発言する特別な権限”がある」「大統領の公的なコミュニケーションのほとんどは、大統領の公的な責任の範囲内に十分収まる可能性が高い」とする一方、「候補者や政党のリーダーとしてなど、非公式な立場」と解される状況もあり得ると指摘。「内容、形式、文脈」の客観的な分析が必要であるとした。

最高裁の判決により、起訴状の内容がどこまで有効であるか、連邦地裁で改めて争われることになる。ニューヨークタイムズは「トランプ氏の弁護士が訴訟の範囲を狭め、できるだけ先送りするのは確実」と予測。トランプ氏が再選すれば、「司法省に訴訟全体を取り下げるよう命じて、訴訟そのものを回避することも可能になる」と指摘している。