テキサス州の裁判所の陪審は5日、サンディフック小学校銃乱射事件を「やらせ」と主張していた陰謀論者アレックス・ジョーンズ氏に、事件で6歳の息子を失った遺族に対して懲罰的損害賠償4,520万ドル(約61億円)を支払うよう命じた。前日には、410万ドル(約5億6000万円)の補償的損害賠償の支払いを命じていた。
ジョーンズ氏は裁判で、銃乱射事件は「100パーセント事実」だったと認め、陰謀論を撤回したが、被告の代理人アンディノ・レイナル弁護士は、計5000万ドルの損害賠償は高額すぎるとして減額を申し立てる意向。テキサス州の法律では損害賠償の上限は100万ドルだと、同弁護士は主張している。
トラビス郡裁判所のマヤ・ゲラ・ギャンブル判事は「テキサス州では法律上、陪審員を信用するにしても信用しないにしても、それを主張する権利があるのは事実」と、被告側の主張は理にかなっていると認めたうえで、「これにもテキサス州法に則った判断が下されるだけ。心配ない」と皮肉交じりにコメントした。
原告側は当初、総額1億5000万ドル(約200億円)の賠償金を要求していた。
ジョーンズ氏は1990年代からラジオなどで大量殺人事件をめぐる数々の陰謀論を提唱し、リスナー向けに被害に備えて防犯グッズなどを売りつける活動もしていた。これまでに、1995年のオクラホマシティ連邦政府ビル爆破事件、2001年の米同時多発テロ事件、米国内各地の銃乱射事件など多くの犠牲者が出た事件を取り上げては、連邦政府の自作自演だなどと主張。ワシントンDCのピザ店の地下(実際には存在しない)で子供の人身売買が行われ、これにヒラリー・クリントン氏をはじめとする民主党員が関与しているとするいわゆる「ピザゲート」も盛んに拡散してきた。
今回のテキサス州の訴訟では、サンディフック小学校の事件から10年の節目の今年、原告側が「長年の詐欺」と称するジョーンズ氏の嘘の主張をまとめて罰する狙いもあった。
裁判前、ジョーンズ氏は資料提出の不備により略式判決ですでに敗訴が確定しており、陪審の審理は補償的賠償と懲罰的賠償の金額の決定に集中した。原告代理人のボール弁護士は、陪審の賠償金支払い命令自体は評価しつつも、賠償額はジョーンズ氏の総資産の2%にも満たないとしている。
刑事訴追の可能性も
来月には、コネティカット州で事件の遺族がジョーンズ氏を訴えた裁判が始まるが、今回のテキサス州の裁判で刑事訴追の対象とする可能性も浮上している。原告代理人のマーク・バンクストン弁護士は、ジョーンズ氏の携帯電話に残ったメールの記録をめぐり「様々な」連邦機関や法執行機関から引き渡し要請が来ていると明かした。
メールの記録は、当初ジョーンズ氏が存在しないと話していたが、裁判中に被告代理人の不注意で存在が明らかになった。バンクストン弁護士は、被告が裁判で宣誓証言をしたにもかかわらず嘘の証言をしたことについても疑問を呈しており、これについては前出のギャンブル判事も言及している。
賠償金額が覆る可能性は?
被告側はテキサス州法による懲罰的賠償金の上限を理由に減額を求める方針だが、原告側は、上限が適用されるケースではないと反論。あらゆる方面から減額を阻止する意思を示した。また原告側は、州法で定めた上限が違憲である可能性についても言及する意向だという。
ブルームバーグによると、テキサス州法は懲罰的賠償の規模について、経済的損害の補償額の2倍に、75万ドルを上限とした非経済的損害額を加えた範囲に制限している。今回のケースでは、経済的損害に対する補償的賠償は11万ドルで、この倍額に75万ドルを合わせると97万ドルで、被告側の100万ドルという主張と一致する。元連邦検事でメディア法の専門家、ミッチェル・エプナー氏はLaw & Crimeの取材に、賠償金は「ほぼ確実に」上限が適用されるとの見解を示している。