米国の短期滞在 インフルエンサーはビザ申請が必要か、専門家の見解は?

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先月、短期滞在の予定でハワイを訪れたインフルエンサーの日本人女性が入国を拒否されたケースが報じられ、話題になった。

拒否の本当の理由は明らかではないが、記事では不法就労を疑われた可能性が示唆されている。米国で就労するには、ESTAではなく適切なビザの取得が求められる。

SNSにコンテンツを投稿して簡単に対価を得られる今、報酬の大小に関わらずそうした活動をしている人は少なくない。果たしてインフルエンサーは労働に必要なビザを取らなくてはならないのだろうか?

インフルエンサーは「プロのエンターテイナーと考えてよい」。そう指摘するのはニューヨークで寺井法律事務所を主宰する移民法が専門の寺井眞美弁護士。エンターテイナーは報酬を受け取らなくても労働を許可されたビザの取得を求められるのが一般的で、これには撮影クルーも含まれる。自分で写真や動画を撮影するインフルエンサーも、原則的に労働が認められるビザが必要と考えるのが妥当だという。

ただしこれは原則としての話で、職業や活動内容によってビザの取得が必要とされないケースがある。例えばスチールカメラマンの場合、米国からの収入がなければ撮影のためにB-1ビザまたはESTAで入国することが可能で、また、ミュージシャンがレコーディングのために入国する場合も、米国外でのみ配布するのであれば、同様に就労のためのビザは必要とされない。

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このことから類推すると、インフルエンサーの場合も「日本語のみの配信であること、収入は日本の企業からのみ発生すること」を明らかにすれば、ESTAでの入国は認められるだろうと寺井弁護士は話す。

(*B-1/B-2 ビザは、商用 (B-1) 、旅行または治療 (B-2) を目的として米国に短期入国する外国人に発給される。ESTAはビザスタンプのないB-1/B-2ビザと位置付けられているという。)

しかしこれは情報を正直に開示することが大前提になる。入国審査官は「入国書類の不足」または「不正または虚偽の陳述によって入国しようとしている」と判断した場合、その場で強制送還する権限が与えられている。これは「迅速退去(Expedited Removal)」プロセスと呼ばれ、仮に誤った判断であったとしても、不服を申し立てる道はない。

寺井弁護士「審査官は百戦錬磨ですから、なんでも観光と言えばフリーパスで通過できると考えない方がよろしいかと思います。入管は実は怖いところです。審査官の決定は絶対で、たとえ有効なビザを持っていてもその判断一つで入国を拒否することができる。絶大な権限を持っているのです。くれぐれもごまかそうと考えないように」。

専門家に相談するのも手

インフルエンサーのような新しい仕事や活動についてはルールが明示されていない。法が時代に追いついていないのが実情だが、今のところ先述のスチールカメラマンや音楽家など、従来からある職業の活動に関わる規定をもとにビザの必要性の有無を判断しなければならない。

寺井弁護士は「アメリカのソースでお金を稼いだり、アメリカで視聴されることが多いのではないかと疑われないようにすること」が大切だと指摘。さらに「収入を得ることに関連する行為については、ESTAで許される範囲であるか、事前に弁護士に相談をして手紙を書いてもらう」ことや、判断が難しい場合は「あえて大使館・領事館でB-1/B-2のビザを申請してみるのも一つの可能性」と話す。「B-1/B-2が却下されると、ESTAが利用できなくなるという不便が発生しますし、労働の許可されたビザを取得する必要が生じますが、強制送還に比べればはるかにましで、やむをえないコストだと思います」。

強制送還されそうになったら

非がないと思っていても強制送還を命じられる可能性はゼロではない。万が一そうなった場合、その場で入国申請を自ら撤回するという選択肢がある。議会調査局の資料には「国土安全保障省は、迅速退去の代替として、外国人に自発的に入国申請を撤回することを許可してもよい」とある。

寺井弁護士「つまり入管は認めなくても良いわけですが、もし撤回が認めてもらえたら5年の入国禁止にはなりませんし、入国拒否のレコードも一応つきません。次回はB1/B2ビザを大使館でもらって入国するべきでしょう」。

退去の危機に直面すると頭が真っ白になってしまうかもしれない。別室に連れて行かれた場合、無理に英語で話そうとせずに通訳をつけるよう頼むのも大事なポイントだという。

Osamu F. MahupReporter.com
福崎 治 / Mahup Reporter 運営・編集責任者。ご意見、ご要望はメールにてinfo@mashupreporter.com