全米初のオルタナティブ週刊紙として知られるニューヨークのコミュニティ出版社「ビレッジボイス」(Village Voice)が、新たな記事の配信を停止することが明らかとなった。同紙は、昨年8月にプリント版の廃止を発表し、ボブ・ディランを表紙にした9月20日号を最後に、デジタル版へと移行していた。1955年に創刊し、ニューヨークの政治やアート、カルチャーなどの情報を発信し、ピューリッツァー賞を3度受賞してきたビレッジボイスが、60年を超える歴史に幕を閉じることとなった。
地元ニュースサイトのGothamistによると、31日、オーナーのピーター・バーベイ(Peter Barbey)氏は、従業員に対して、今後新たなニュースを出版しない旨を発表した。約半数のスタッフ(15-20人)は解雇され、残り半数は、記事をアーカイブを作成する作業のため一時的に残留するという。
報道機関に向けた声明で、バーベイ氏は停止理由を「厳しさを増す経済状況」により、ビジネスを安定軌道に乗せることができなかったと述べた。一方、アーカイブ化について、「歴史と社会の進歩の重要な記録である」と重要性を語り、「次世代に、都市と国家の社会的、文化的な宝を体験する機会を提供する」と目的を語った。
ボイスに寄稿していたフリーランスのライター、Valerie Vande Panneは、「原稿を入稿した友人は、編集者から良いニュースがあると言われた。君はボイスにニュースを掲載した最後のジャーナリストだと。でもそれは悪いニュースでもあると。」と突然の出版停止であったことを明かした。
ヴィレッジ・ボイスの歴史
ビレッジボイスは、1955年にエド・ファンチャー(Ed Fancher)、ダン・ウォルフ(Dan Wolf)、ノーマン・メイラー(Norman Mailer)がウエストヴィレッジで創刊したコミュニティー週刊紙で、10月26日に創刊号が発行された。
リベラルな視点から、ニューヨークの政治、国際問題、演劇や文学、映画などのアート・カルチャーまで幅広い分野をカバーする週刊紙は、「オルタナティブ・ウィークリー」(alternative weeklies)と呼ばれた。
同紙は、新聞報道や文学などに与えられる米国の権威ある賞、ピューリッツァー賞を3度受賞している。ビレッジボイスの成功を機に、同紙をモデルとしたコミュニティー紙が米国の多くの地域で誕生した。
同紙は、ジャーナリストのジャック・ニューフィールド(Jack Newfield)や、ジェームズ・リッジウェイ(James Ridgeway)、ウェイン・バレット(Wayne Barrett)、音楽批評家の先駆者ともいえるロバート・クリストガウ(Robert Christgau)、レスター・バングス(Lester Bangs)、エレン・ウィリス(Ellen Willis)など優れたジャーナリストや批評家、作家を輩出してきた。
後にピューリッツァー賞を受賞したシアター批評家のヒルトン・アルス(Hilton Als)と小説家のコルソン・ホワイトヘッド(Colson Whitehead)などもビレッジボイスで活躍していた。
1956年よりオフブロードウェイシアターの功績を讃えるための「Obie Awards」を開催したり、毎年6月にはゲイパレード特集を発行し、LGBTQのコミュニティをサポートしたりするなど、ニューヨークのカルチャーシーンを支えてきた。
「タイムアウトニューヨーク(Time Out New York)」や、「ザ・ニューヨークプレス(The New York Press)などの情報誌の台頭により、発行部数を増やすため、1996年に無料化するが、次第に性的なエスコートサービスの広告収入に頼るようになる。(2015年以降、オーナーがピーター・バーベイ氏に変わってからは、エスコートサービス広告は排除され、再び発行部数を伸ばしていた。)
2005年 New Times Mediaが買収。
2015年10月 ペンシルベニアで新聞「 The Reading Eagle」を発行するBarbey家のピーター・バーベイ氏(Peter D. Barbey)がオーナーとなる。
2017年8月 プリント版を廃止すると発表。十数名の従業員を解雇するなど、リストラを行った。
2017年9月20日プリント版の最終号を発行。
2018年8月31日デジタル版のニュース配信の停止を発表