トランプ政権高官とCIAの間で、2017年、内部告発サイト「ウィキリークス」の創設者ジュリアン・アサンジ氏を誘拐する計画が話し合われていたという。Yahoo Newsが30人を超える元政府職員の話しを元に報じた。一部には殺害も視野に入れた議論があったという。
米政府は過去数年間、アサンジ氏の監視を強めていたが、直接のきっかけになったのは「CIA史上最大のデータ流出」とされた「Vault 7」の公開で、同サイトは、当時CIA長官に就任したばかりのマイク・ポンペオ氏が、アサンジ氏への「復習」を求めたと伝えている。
Vault 7にはCIAのハッキングの能力や計画、ツールに関する資料が含まれ、アサンジ氏は2017年3月に資料の第1部「Year Zero」を公開した。
ポンペオ氏はこの翌月に行なった演説で、「機密情報を入手するためにフォロワーにCIAに就職するようけしかけている」などと非難。ウィキリークスを「非国家の敵対的諜報機関」と指定するべきとの考えを示した。演説後まもなく、CIA高官を集めて、制限を設けずにすべての可能性を検討するよう話したという。
アサンジ氏は2012年、英国のエクアドル大使館に亡命を申請し、2019年に英当局に逮捕されるまでの7年間、大使館建物に籠城した。米国政府は、チェルシー・マニング元米軍情報分析官が機密情報の入手をするのを助けたなどとして、アサンジ氏を起訴しており、現在ロンドンの拘置所にいる同氏の身柄の引き渡しを求めている。
アサンジ氏をロシアの諜報機関がモスクワに逃す準備をしているとの報告が入ると、誘拐の議論に拍車がかかったという。
CIAとホワイトハウスは、これを阻止する様々なシナリオを想定。この中には、ロンドン市街でロシアの工作員と銃撃戦となる可能性のほか、アサンジ氏を乗せたロシア外交官の車両に衝突することや、同氏をモスクワに運び出す飛行機が離陸する前にタイヤを撃ち抜くなど、007さながらの案が話し合われたという。
元政権高官の1人は、ある報告書では、アサンジ氏が洗濯物を入れるカートに乗って、大使館の脱出を試みる可能性に言及していたと明かしている。
ただ、ホワイトハウスの法律顧問を含む職員の反対から、アサンジ氏を標的とした計画が承認されることはなかった。
国家安全保障評議会の関係者の一部は、誘拐が違法なだけでなく、訴追を危うくすることに懸念を示したという。
ホワイトハウス職員は、トランプ大統領に国際的事件に発展する可能性があると警告したほか、一部の関係者は、政府がメディアを標的にする障壁を下げることで「米国の弱体化」につながる危険があると心配したという。
Yahooの取材に、トランプ前大統領は声明で「完全に誤り。そんなことはなかった」と回答。さらに「事実、彼は非常に悪い扱いを受けていると思う」と同情を示したという。
トランプ氏は2016年の大統領選で、ウィキリークスが民主党全国委員会の電子メールを公開した際、「ウィキリークスが好きだ」「ウィキリークスは宝の山のようだ」といった発言を繰り返した。またハッキングにロシアが関与していないと証言することの引き換えに、アサンジ氏に恩赦を与える案を打診したとも伝えられている。
アサンジ氏の弁護士、バリー・ポラック氏は、Yahooに「アメリカ市民として、真実の情報を公開したというだけで、政府が司法手続きを飛ばして、誘拐や暗殺を検討するなどとんでもないこと」と非難。「英国の裁判所が、この報道を考慮に入れ、米国に身柄を引き渡さないという判断が強化されること」を期待していると語った。