グリーンランド獲得案、トランプ氏に持ちかけた富豪とは?

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トランプ次期大統領によるグリーンランドの獲得に関する発言をめぐって、波紋が広がっている。

昨年の大統領選勝利以来、トランプ氏はデンマークの自治領グリーンランドの獲得や、中米パナマが管理するパナマ運河の管理権の取得を公に議論している。また、カナダを米国の51番目の州にするという考えも語っている。

7日にフロリダのマール・ア・ラーゴで開いた記者会見では、米軍を関与させる可能性を否定しなかった。

グリーンランドやパナマ運河の獲得に軍事力や経済的圧力の行使を否定するかとの質問に対して、「いいえ。どちらについても保証はできない」と回答。「経済安全保障のために我々にはそれらが必要だ。パナマ運河は我々の軍事目的のために建設されたのだ」と続けた。

これに対して、ドイツのショルツ首相は8日、ベルリンの記者会見で「国境不可侵の原則は、東西を問わずすべての国に適用される」と牽制。「小国であろうと非常に強力な国であろうと、すべての国がそれに従わなければならない」と加えた。

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英紙インディペンデントによると、フランスのバロ外相はラジオで、「欧州連合が世界の他の国々に、それがどの国であれ、EU の主権のある国境を攻撃させることはありえない」と一蹴した。ただし、「米国がグリーンランドに侵攻するかと思うかと聞かれれば答えはノーだ」とトランプ氏が軍事的圧力をかける可能性は否定する一方で、「しかし、適者生存の時代に突入したのかと問われれば、答えはイエスだ」と述べるなど、力による外交の高まりに懸念も示した。

グリーンランド獲得の発想の源は?

Jo Carole Lauder and Ronald Lauder
Ron Adar/Shutterstock

トランプ氏の発言の真意や本気度をめぐってさまざまな憶測が流れているが、グリーンランド獲得の野望は少なくとも第一期目から持ち続けている。

ニューヨーク・タイムズのホワイトハウス担当主任記者、ピーター・ベイカー氏とニューヨーカーのスタッフライター、スーザン・グラッサー氏の共著「The Divider: Trump in the White House, 2017-2021」によると、トランプ政権初期にグリーンランド獲得案を植え付けたのは、エスティ・ローダー・カンパニーの相続人の一人で富豪のロナルド・ローダー氏だった。

ローダー氏とトランプ氏の関係は長く、ともにペンシルベニア大学に通っていた頃に知り合ったとされる。2019年にはトランプ氏の共同資金調達委員会に10万ドルを寄付している。

著書によると、トランプ氏は最初、大統領補佐官就任から数ヶ月経ったジョン・ボルトン氏に、「私の友人で、本当に経験豊富なビジネスマンが、われわれはグリーンランドを獲得できると考えている」と告げた。

その後、ローダー氏がボルトン氏に面会に訪れ、トランプ氏とグリーンランドについて議論していると明かし、「デンマーク政府と交渉のための裏ルート」役を自ら申し出たという。

中国による北極海進出や戦略的資源の搾取を懸念していたボルトン氏は、グリーンランド案に何らかの意義があるかもしれないと考えたものの、1946年のトルーマン大統領による購入の申し出が拒否されている経緯を踏まえ、トランプ氏にデンマークを激怒させると警告。さらに、ローダー氏を特使とする案にも反対を唱えた。

ボルトン氏は無視して、問題を先送りしようと務めたものの、2018年後半には政権内部で多くの人々が話す事態に発展したことから、フィオナ・ヒル氏ら側近らに小チームを編成して対応を命じた。

ヒル氏らは、いかにトランプ氏の執着に対処し主要な外交問題にさせないかを検討。デンマークの駐米大使らと密談を重ねた挙句、複数案をボルトン氏に提示。中でもグリーンランドに米軍基地を置いた1951年のデンマークとの安全保障協定を更新することが「非常に賢明」な計画であるとの結論に至った。ただしボルトン氏はこの時点で、すべて停止するようと命じたという。

一方、トランプ氏の執着は止まらず、2017年のハリケーンで甚大な被害を受けたプエルトリコへの災害救援資金をグリーンランド購入資金に充てることが可能かなど、尋ねることもあった。

グリーンランド問題が公になったのは2019年8月。フランスのビアリッツにおけるG7首脳会合を目前に控え、ウォールストリートジャーナルが「トランプ大統領、新たな不動産購入を検討:グリーンランド」と報じた。

なお、ボルトン氏は、開催に先駆けてコペンハーゲンを訪問し、デンマークのフレデリクセン首相と面会を予定していたという。

報道はトランプ氏の野望を一時的な空想として描き、内部事情と異なるトーンだったが、グリーンランド当局の強い反発に遭遇。さらにトランプ氏はこれを公に認めた挙句、ツイッターで挑発し、「私はこれをグリーンランドにしないことを約束する!」とコメントをつけて、同国の土地に金色の超巨大トランプタワーを合成した画像を投稿した。

自ら起こした騒動にもかかわらず、トランプ氏はボルトン氏を執務室に呼びつけて、コペンハーゲン行きをキャンセルするよう指示。自らも予定していたデンマーク訪問を取りやめた。

なおトランプ氏は退任後、「公になったら、彼らは政治的勇気を失った」と、あたかもデンマークが真剣に売却を検討していたかのような発言をしたことがあったという。

ボルトン氏らは当時、中国との競争を見据え、米とデンマーク双方にとって有益な安全保障の取り決めを強化し、結果的にグリーンランドとより明確な関係が構築できる可能性があるとも見ていた。

ボルトン氏は、著者に、「もしトランプ氏が口を閉じていれば、それが見つけられたかもしれなかった。しかし完全に消えてしまった」と語っている。

Mashup Reporter 編集部
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