米ビール大手アンハイザー・ブッシュの主力商品「バドライト」の不買運動が物議を醸す中、普段SNSであらゆる問題に切り込むトランプ前大統領は珍しく沈黙を決め込んでいる。その背景には、ある大人の事情があるのかもしれない。
バドライトをめぐっては今月、トランスジェンダーのインフルエンサーとしてTikTokで人気のディラン・マルヴェイニー氏と提携し、オンラインキャンペーンを展開。これが保守派の反発を買い、バドライトに対する不買運動が広がっている。このせいもあり同商品の4月中旬の売り上げは前年同期比で17%減と、急激に落ち込んだ。
通常であればトランプ氏はこのような政治絡みの議論にすぐに口を出してきそうだが、今回は全く反応が見られない。自身の主な発信元「トゥルース・ソーシャル」にもバドライトやマルヴェイニー氏に言及した投稿はなく、他の媒体にも公のコメントは出ていない。政治情報サイト「リアル・クリア・ポリティクス」は、バドライトをめぐる騒動について大統領選の候補者など共和党の有力者らに各々コメントを求めたが、トランプ氏だけは回答がないという。
トランスジェンダーの権利保護には反対の立場を示していただけにトランプ氏の沈黙は不自然に思われていたが、27日、英紙インディペンデントがトランプ氏とバドライトを結び付けるちょっとした裏事情を報じた。
トランプ氏が今月14日、米選挙管理委員会に提出した101ページの資産報告書によると、同氏はバドライトの製造を手掛けるアンハイザー・ブッシュ傘下の子会社「アンハイザー・ブッシュ・インベブ」に大口の投資を行っている。「DJTトラスト―投資アカウント#2」という名義のもと、100万~500万ドル(約1億3600万~6億8000万円)相当の同社株を所有しているという。
バドライトの騒動には、トランプ氏の長男トランプ・ジュニア氏が13日、ポッドキャスト番組で言及し、不買運動をやめるよう呼びかけていた。ジュニア氏は「アメリカを象徴する会社をこんなことで破滅させたくはない。他の大企業と違い、左派のナンセンスな活動に会社自体が参加したわけではない」と、アンハイザー・ブッシュを擁護。普段は保守寄りの過激コメントで知られるジュニア氏らしからぬ発言と受け止められていた。
一方、共和党の有力者らはこれと異なり、同社のマルヴェイニー氏の起用には一様に難色を示している。
大統領選にいち早く立候補したニッキー・ヘイリー元国連大使は、アイオワ州の選挙集会でマルヴェイニー氏を批判。トランスジェンダーの人の女子スポーツ参加をめぐる議論に絡め、「この男性は、まるで女の子のようにおしゃれをして、女性をバカにしている」などと訴えた。
近く大統領選に出馬すると見られているマイク・ペンス副大統領も、リアル・クリア・ポリティクスの取材でバドライトの不買運動は意義のあることと述べ、トランスジェンダーの権利擁護の動きに反対の立場を示した。
共和党でトランプ氏の最大のライバルと目されるフロリダ州知事のロン・デサンティス氏に至っては、宣伝キャラクターとしてのマルヴェイニー氏の起用は「我々の顔に(トランスジェンダー問題を)擦り付けるようなもの」と不快感を露わにした。デサンティス氏は地元フロリダでLGBTQに関する教育を一定年齢まで禁止するなどいわゆる“反LGBTQ法”をいくつも制定している。
*文中のマルヴェイニー氏の経歴に関して誤りがありましたため、修正いたしました。5.1.2023