トランプ前大統領は18日、ニューヨークのナッソー郡ユニオンデールで選挙集会を開き、「われわれはニューヨークで勝利する」と豪語した。
ニューヨーク州は1988年以来、共和党の大統領候補者に一度も勝利を与えていないディープなブルー州。トランプ氏は2016年、2020年ともに20ポイントを超える大差で敗北している。ただし、下院選では2020年、2022年と共和党が議席を伸ばしており、今年も同党が過半数を維持する上で最重要州の一つみられている。
ニューヨークのバーでビットコインで支払った初の大統領に
トランプ氏は集会前、ビットコインによる支払いを受け入れることで知られるマンハッタンのバー「PubKey」を訪問。ハンバーガーとビールを常連客らにふるまった。ニューヨークポスト紙によると、大統領経験者として、ニューヨーク市のバーでビットコインで取引を行ったのはトランプ氏が初めて。バーは、今年の秋から息子バロン君が通うニューヨーク大学からもほど近い。
大統領在任中は暗号通貨に懐疑的な立場だったトランプ氏だが、最近になって暗号通貨を支持する方向に転換。7月にナッシュビルで開かれた暗号通貨のカンファレンスに出席し、米国を「暗号通貨の首都」にしたいと宣言した。2024年の選挙は、暗号通貨関連の企業や投資家から大金が流れているとされ、トランプ氏のキャンペーンも暗号通貨での寄付を受け入れている。
ニューヨークの勝利に本気
演説の冒頭、「私がここにいる理由は、何十年も実現できていないことだ。われわれはニューヨークで勝利するつもりだ」と宣言。「君たちの投票によって我が国を救い、民主党が支配する州を救う。偉大なるニューヨーク州を守ることから始めるのだ」と述べ、「ワシントンでニューヨークでキャンペーンをすると言ったら、ニューヨークってどんな意味だ?誰も勝てない。共和党は勝てないと言われたが、私はニューヨークで勝利できると言ってやった」と語った。
地下鉄をリノベート
就任第一週に民主党の知事や州全域の市長に連絡をして協力を呼びかけるとした上で、インフラの再建計画の一環でニューヨークの地下鉄をリノベーションすると語った。
「信じられないかもしれないが、私はかつてニューヨークの地下鉄で学校に通った」と述べ、「自分が居なくなってしまう恐怖はなかった。親は私を駅まで送ってバイバイしたものだが、今それをすれば、75%の確率で二度と子供と会えなくなる」と主張。「われわれは世界で最も偉大な都市がとうとう世界最高の交通システムを再び手に入れるためにニューヨークの地下鉄を改修する。基本的なものがなくてはならない。きれいにして、大事にして、愛情を注がねばならない。犯罪者を追い出さなければならない」と加えた。
ジュリアーニ時代さながらの取り締まりを復活
カマラ・ハリス氏を保釈金制度の廃止や警察予算の削減運動の主導者と非難する一方、自身が大統領に就任した場合、司法省を改革してニューヨークに「莫大な公共安全資金」を与えると宣言。聖域都市政策、キャッシュレスの保釈制度を終わらせると述べ、さらに、「ルディ・ジュリアーニ政権の下で行われ、ニューヨーク市を最も安全な大都市に変えたような実証済みの取り締まり手法を取り戻すだろう」と語った。
1994年から市長を2期務めたジュリアーニ氏は、警察改革を実施し、8年間で暴力犯罪や殺人、強盗件数を大幅に減少させることに成功した。捜査手法に、ストップ・アンド・フリスク(警察官が路上で疑わしいと判断した人物を呼び止め、身体検査を行い、武器などを所持していないか調査する)を採用したことで知られる。同手法は軽犯罪を取り締まることで、重大な犯罪を根絶できるという環境犯罪学上のセオリーである割れ窓理論(ブロークン・ウィンドウ理論、Broken Windows Theory)に基づいたものとされる。
ただし、ストップ・アンド・フリスクは、マイノリティがターゲットにされるケースが不均等に多く、違法性をめぐる論争に発展。連邦地裁は2013年(フロイド対ニューヨーク市)、間接的に人種的プロファイリングを引き起こしたとして、違憲判決を下した。市は上訴したが、2014年に市長に就任したビル・デブラシオによって訴えが取り下げられた。
SALT控除の上限を廃止
経済政策をアピールするなかで「SALTを戻す」と提案。州税および地方税 (SALT) 控除の上限を廃止する考えを示した。
SALT控除は、連邦所得税申告時に、一定の州税と地方税の支払額を控除できる制度。以前は上限はなかったが、トランプ政権で成立させた減税・雇用法によって、上限が1万ドルに設けられた。民主党からは、ニューヨークやニュージャージーなどの州税や地方税率の高い地域の住民に、不釣り合いなダメージが及ぶとして批判されている。
国境大統領になる
ハリス氏は「国境の皇帝」の任務を果たさず、大量の不法移民の流入を許したと非難。「2,100万人の不法移民が世界中から、刑務所の拘置所から、精神病施設からやってきている」「国境は2016年の時よりも25倍悪化している」など、従来の主張を繰り返した上で、「私は君たちの”国境大統領”として知られたいと思っている」と語った。ハリス氏については「カマラは侵略大統領として知られるだろう」と加えた。
オハイオ州スプリングフィールドを訪問する
その後、話は「移民がペットを食べている」発言で炎上したオハイオ州のスプリングフィールドに。「数週間で3.2万人」の移民が流入し、人口がほぼ倍増したと説明しつつ、「今後2週間以内に、私はそこに行くつもりだ。スプリングフィールドに行く。オーロラに行くつもりだ」と語った。「もう君たちに会えなくなるかもしれない」と冗談めかしつつ、「私はオハイオ州で15%も大量にリードしている。オハイオを大切にしなければならない。コロラドを大事にしなくてはならない」と続けた。
今月、オハイオ州スプリングフィールドで移民がペットを食べたという噂が出回った後、市内の学校に30件を超える爆破予告があり、複数の学校で避難する事態に発展した。噂は極右活動家や地元の共和党員、ネオナチらがオンラインで流布したものとされ、地元の警察は根も葉もない噂と否定している。それにも関わらず、トランプ氏は10日の大統領選討論会でその主張を持ち出し、バンス氏もXで拡散。人々を危険にさらしたとして、メディアや民主党から強い反発を招いた。
スプリングフィールドのロブ・ルー市長は、Forbsの取材に、ペットの噂は100%誤りだと否定。「われわれのコミュニティにこれほどの明るいライトは要らない」と述べるなど、騒動の渦中に放り込まれたことに懸念を表明している。