グランドハイアットとともに、トランプ氏の初期の不動産プロジェクトの成功を象徴するものとして知られるマンハッタン5番街のトランプタワー。商業スペースとコンドミニアムの複合ビルで、かつてはマイケル・ジャクソンが賃貸し、ブルース・ウィルスが物件を所有したこともあった。トランプ氏自身、大統領に就任するまで、ベルサイユ宮殿の内装に似せたと言われるペントハウスに暮らした。2016年の選挙キャンペーンもここからスタートさせている。
リアリティー番組「アプレンティス」の撮影に使用するなど、トランプ氏のブランディングにも重要な役割を果たしてきたビルだが、最近はパンデミックによるオフィス需要の低迷に加え、事業に失敗したテナントの賃料未払いの問題の対応に追われているのだという。
ワシントンポスト紙によると、18階に入っていたアパレルメーカー、マークラフトは昨年、66万4,000ドルの未払い賃料を含む3,000万ドルの負債を抱えたまま倒産した。19階では、かつてクリス・ジェンナーを会長に迎えたことを自慢していた「レガシー・ビジネス・スクール」がオフィスを構えているが、昨年10月時点で、賃料と税金を合わせた19万8,000ドルが未払いになっていた。さらに21階と22階のテナントで、イバンカ・トランプ氏のブランドの靴を手がけていたマーク・フィッシャー・フットウエアが、昨年11月から140万ドル以上の家賃を滞納していることが、トランプ・オーガニゼーションが今年起こした訴訟から明らかになっている。
ビルの商業スペースの占有率は75%で、2013年以来最低の水準に陥っているのだという。
政治活動委員会をテナントに
これらテナントの問題を抱える一方、安定した収入をもたらし続けている部屋があるという。
2020年大統領選キャンペーンで利用していた1501室は、その後、トランプ氏の政治活動委員会「Make America Great Again PAC」に引き継がれ、3月から毎月3万7,541ドル(410万円)の家賃が支払われているという。賃料は、1平方フィートあたり85ドルでマンハッタンのミッドタウンの平均に近い。
物件でどれほどの活動が行われているか不明だ。
連邦選挙委員会に提出された資料では、従業員はわずか3人しか登録されておらず、関係者はポスト紙に、3人はいつも勤務しているわけでなく、自宅やフロリダ、またはニュージャージーにあるトランプ氏のゴルフクラブで働くこともあると話している。同紙によると、典型的なオフィスの一人当たりの面積を元に算出すると、同物件は30人用になる。
これに加え、トランプ氏のPACは、ロビーが閉鎖されているにも関わらず、ロビー内にあるポップアップの小売スペースに毎月3,000ドルを支払い続けているという。
このPACは特別政治活動委員会という形式で、その性質上、集めた寄付金をトランプ氏が自身の物件に支払うことに問題がなく、違法にあたらないという。
選挙資金の専門家は、トランプ氏はゆるい規制を利用して、支持者から集めた政治資金を私的な収入に変えていると指摘している。監視団体「Common Cause」のポール・ライアン氏はポスト紙に「トランプ氏は詐欺をはたらいている」と述べ、政治費用に見せかけておいて「実際は私腹を肥やすために資金を調達しているのだ」と批判した。
なおニューヨークタイムズは昨年、トランプ氏が4億2,100万ドルの借金を個人保証しており、このうち3億ドルが4年以内に期限を迎えると伝えた。トランプタワーに関しては、1億ドルのローンが来年に返済期限を迎えると報じられている。
トランプタワー内部↓