トランプ大統領は1日、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づきメキシコ、カナダ、中国からのほぼすべての輸入品に一律関税を課す大統領令に署名した。
カナダとメキシコからの輸入品に25%、中国からの輸入品に10%の追加関税となる。 ただしカナダからのエネルギー資源の輸入品ついては10%とした。
不法滞在者やフェンタニルを含む違法薬物が国家に与える脅威に対処するためだとしており、危機が緩和されるまで続ける。新関税は4日(火)から適用される。
米国のオーバードーズによる死亡は後を絶たず、2022年、2023年の死者は11万人を超えた。2023年はこのうち78%がフェンタニルによるものだった。
大統領令には、少額の輸入貨物を対象とした免税ルールは適用されないと明記された。
デミニミス・ルールの抜け穴
デミニミスとも呼ばれるルールでは、低価格輸入品の関税と標準的な審査手続きが免除される。各国で同様のルールが設けられているが、米国は寛大で、連邦法で800ドル未満の荷物が個人の消費者に直接送られる場合、免税扱いとなる。
近年、このルールが違法薬物の密売業者に悪用されているとして、政府は警戒を呼びかけてきた。
不法入国や違法品の国内への持ち込みを取り締まる税関国境警備局 (CBP)によると、2023年度に安全衛生違反で押収した貨物の85%が小型荷物で、「フェンタニルやその他の合成麻薬の製造に使われる前駆体物質やプレス機、金型などの材料」を含む違法薬物の主要経路となっている。
ニューヨークのJFK国際空港では、イギリスからサウスカロライナの個人宅向けに送られた荷物からフェンタニルの40倍、モルヒネの最大800倍の作用を持つとされる合成オピオイド、ニタゼンが1ポンド押収されるなどしている。同空港では週に数回の頻度で数グラムから1ポンド以上発見されているという。
ロイター通信の報道では、2023年1月に家宅捜索を受けたアリゾナ州ツーソン在住の男は、メンテナンス業をする傍で副業として中国から届いたフェンタニルの前駆体物質をメキシコの麻薬カルテルに車で配送していた。違法物質はロサンゼルス空港で荷下ろしされ、男の自宅まで空輸または地上輸送によって届けられていた。過去2年間に運んだ量は7,000キログラムと推定され、これは米国民すべてを数回殺害するのに十分な53億錠を生産する量に匹敵する。
密売業者はデミニミスルールを悪用し、こうした非公式の運搬人を使ってメキシコの麻薬組織に化学物質を届け、そこで犯罪組織がフェンタニル完成品を製造して米国に密輸するサイクルが繰り返されている。
なお、犯罪組織は完成品を米国に持ち込むのにも米国市民を使用している。シンクタンクのCato Instituteによると、2021年にフェンタニルの密輸で有罪判決を受けた86%が米国市民で、不法移民の10倍に達した。密輸の90%以上が合法的な通過地点で発生しており、米国市民であるが故の検査の緩さが事態の悪化を招いている。
こうした犯罪を容易にした背景には、2015年のデミニミスの上限価格引き上げと個人のオンラインショッピングの爆発的な増加がある。それまで200ドルだった上限は、オバマ大統領によって2016年3月からから800ドルへと引き上げられた。
2015年にデ・ミニミスとして入国した荷物は1億3,400万個だったところが、2023年には10億個を超え、2024年度は14億近くになると見られている。この間、中国初のTemuやShienといった格安品の販売サイトが台頭した。2023年のデミニミス荷物の60%が中国からで、両サイトだけでこの半分を占めるとされる。
トランプ氏の政策転換によって、こうした格安サイトがビジネスモデルの転換を余儀なくされると見られるが、いかに大量の少額貨物を精査できるのか疑問が残る。JFK国際空港では、米国のデミニミス荷物の25%を処理しており、仮に現在のスタッフを3倍に増やしても精査は不可能だと悲鳴をあげている。