非営利組織Open the Booksの調査によると、米政府は2021年以降、「misinformation(誤情報)」の名のついた研究や活動に対して2億6,700万ドル(410億円)の助成金や契約金を提供していることがわかった。
トランプ政権で提供されたのは総額約670万ドルだった。
このうちの大半は新型コロナウイルスに直接関係するもので、ワクチンに関する誤情報の抑制を目的とした活動やネット上の誤情報拡散に関する科学的研究に少なくとも1億2,700万ドルの税金が投入された。
最大の提供元は保健福祉省の1億8,500万ドルで、次いで国立科学財団(6,500万ドル)、国務省(1,200万ドル)と続いた。
保健福祉省のウェブサイトでは、誤情報を「その時点で入手可能な最良の証拠にもとづく虚偽、不正確、誤解を招く情報」と定義している。また、新型コロナウイルスに関連する誤情報の問題について「パンデミック期間中、健康に関する誤情報によって、人々がワクチンの接種を拒否し、公衆衛生対策を否定し、実証されていない治療法を使用した」と説明している。
ただし、当時はソーシャルディスタンスを推奨した国立アレルギー感染症研究所のアンソニー・ファウチ元所長が後に科学的根拠がなかったと撤回していることなどから、Open the Booksは、「入手可能な最良の証拠」を誰が決めるのか、誰を権威とするかなどをめぐって権力の濫用につながる可能性があると指摘している。
対誤情報の活動資金として提供された例としては、「コロナとインフルエンザワクチンに関する資料を配布するための非営利団体のネットワーク構築」として疾病予防管理センター国立財団に支払われた8,000万ドル、「マスコミキャンペーン、衛生管理メッセージのSMS配信、屋外広告、ワクチンの抵抗感に対処するピアアドボカシー・プログラム、誤情報対策のアウトリーチ」など、ノースカロライナ州ダーラム郡保険福祉局に提供された200万ドルが含まれる。
一方、誤情報の研究活動ではニューヨーク市立大学やウェイクフォレスト大学、ミシガン大学、ペンシルベニア大学などの研究機関に、それぞれ数百万ドルの助成金が提供された。
この中には、「黒人や田舎のコミュニティにおけるソーシャルメディア上の新型コロナ関連の誤情報の露出の異質性の調査・特定」といったコミュニティが受け取るメッセージやメディアを見つけ出そうとする取り組みや、ネット上の誤情報が公衆衛生に与える悪影響に対抗するために「ワクチンに関する議論を追跡し、議論の影響を検証するためのワクチン情報システムの開発」を目指すものもあった。
さらに、「ポピュリズム時代のパンデミックコミュニケーション:分断社会における柔軟性のあるメディアの構築と効果的なパンデミックコミュニケーション」と題されたジョージ・ワシントン大学の研究費20万ドルなど、トランプ政権を念頭に置いたとみられる取り組みも含まれていた。
Open the Booksは、「誤情報」を懸念する政権そのものが誤情報を流し、助成金の一部は政敵を標的にしていたとした上で、「官僚的プログラム活動が、批判者を黙らせるためのイデオロギー的な動機によるものではないと単純に信じることはできない」と主張。
政府の誤情報問題への取り組みは客観性を維持できないとしたほか、言論の自由といった権利侵害の非難によって信頼性を損なうとした上で、トランプ政権では「誤情報の管理への政府の関与を終わらせなければならない」と提言している。
助成金の問題とは別に、今年7月、メタ社のザッカーバーグCEOがコロナ関連のコンテンツの一部を「検閲」するようバイデン政権から圧力をかけられたと認めるなどしたことから、民間セクターに対する政府の働きかけを警戒する声が高まっている。
また、X社では、イーロン・マスク氏主導のもと、捜査当局とツイッター社幹部が定例会議を開催していたことなどが明らかにされている。
トランプ氏「検閲カルテル」解体を約束
トランプ氏は、選挙キャンペーン開始直後に公開したビデオで、「検閲カルテルは解体され、破壊されなければならない」と主張。大統領就任直後に大統領令に署名し、政府機関が企業や組織と共謀して「市民の合法的な言論を検閲・制限・カテゴリー化、妨害する取り組みを禁止する」と約束している。