10日にフィラデルフィアで開催されたトランプ氏とハリス氏による初の大統領選候補者討論会。視聴数は6,700万人を超え、実施直後の視聴者に対する非公式の世論調査では、ハリス氏に軍配が上がった。
CNNの調査は63対37で、ハリス氏がより優れたパフォーマンスを発揮したと回答。YouGovの調査では43%がハリス氏が勝利したと答えた(トランプ氏は28%)。
2回目の討論会が実現するかは今のところ不明だが、今回の討論会は、浮動票、とりわけ選挙の行方を左右する激戦州で、まだ決めかねている有権者を取り込めるかが両者にとって最重要ポイントと見られていた。
トランプ氏の敗因をめぐって、一部では、一般的な有権者には伝わらないレトリックの問題を指摘する声が上がっている。
Voxの編集長スワティ・シャルマ氏は11日の論説で、党支持者に比べて「政治に関心が薄い傾向」のある無党派層に働きかけるには、「自分と聴衆の間にある知識のギャップを留意しなければならない」と指摘。トランプ氏の討論会の発言は、こうした人々にとって、補足なしでは理解しがたいものだったと振り返った。
シャルマ氏は、トランプ氏は繰り返しハリス氏を「マルクス主義者」と攻撃したものの、特に冷戦時代を十分に理解していない高卒の有権者には響かないだろうと指摘。1月6日の議事堂襲撃事件を「J6」と称するのは、Truth Socialのフォロワーと浮動票を握る有権者の違いを理解していないことの表れだとした。
不法移民をめぐる議論の中で飛び出した発言「彼女は刑務所にいる不法移民にトランスジェンダーの手術を提供したがっている」は、完全に根拠を欠いたものと言えないが、初めて聴く人々にとっては説明不足とも主張した。ハリス氏は2019年に大統領選の予備選に出馬した当時、アメリカ自由人権協会のアンケートの中で、勾留中の不法移民のうち、トランスジェンダーの人々に性別変更の治療を提供するために行政権を行使する意向を示していた。
さらに、「オーロラ」や「スプリングフィールド」の地名を、なんら説明を加えずに「あたかも災害地の代名詞」のように語り、そこからさらに「入ってきた人々」が犬や猫を食べていると断言するなど、「不可解」な発言に従事したと指摘。右翼系SNSに詳しくない人々にとっては、「間違いなく混乱を招くものだった」とした。
スプリングフィールドについては、ペットが誘拐され移民が食糧にしているという主張が最近になってネットで出回り、問題になっていた。副大統領候補のJDバンス氏も「噂は後に嘘と判明するかもしれない」と断りを入れつつも、自身のXアカウントで取り上げ、拡散に寄与した。
NPRによると、差別的な主張は極右活動家や地元の共和党員、ネオナチらが作り出したもので、地元の警察はすでに根も葉もない噂と否定している。それでも拡散の勢いは止まらず、Truth SocialやXでは、トランプ氏をネコやアヒルの救世主として描いたAI画像や「キャット・ライブズ・マター」といったスローガンが溢れている。
ますます陰謀論に頼りがちに?
ニューヨークタイムズの記者でトランプ伝記本『Confidence Man』の著者、マギー・ヘイバーマン氏は先月、CNNのインタビューで、ハリス氏の追い上げを受け、トランプ氏は簡単に陰謀論に耳を傾けてしまうほどに脆くなっていると語った。
「数週間前に側近がどこからともなく持ち出したテキストメッセージをめぐり、大口ドナーを攻撃した」ことがあったと明かしたほか、「周囲には、陰謀論を支持したり、体制側とみなされる人々を嫌ったり、特定の共和党員に批判的な人々がたくさんいる」と指摘。「彼は追い詰められると感じると、これらの人々に耳を傾ける傾向がある。現在追い詰められていると感じているのは明らかだ」と主張した。
こうした兆候は討論会の当日にもあった。フィラデルフィア空港に着陸したトランプ氏の飛行機から、元下院議員候補で極右活動家、100万人を超えるXのフォロワーを抱えるインフルエンサー、ローラ・ルーマー氏が降りる姿があった。
ルーマー氏は、2017年のラスベガス銃乱射事件や2018年のフロリダ州パークランド高校銃乱射事件をめぐる陰謀論を支持したほか、パンデミック中は反ワクチン活動家として、流産説を拡散するなどした。昨年は、2001年にラムズフェルド国防長官(当時)が2.3兆ドルの政府資金が「失われた」と発表していたことを曲解し、米同時多発テロ事件の「内部犯行」説を拡散した。
AP通信によると、ルーマー氏は「この半年間、セミレギュラー」メンバーとして、トランプ氏の選挙活動に同行しているという。討論会の翌日の9月11日、トランプ氏やバンス氏と共に、マンハッタンのグラウンドゼロやユナイテッド93便が墜落したペンシルベニア州シャンクスビルを訪問し、被害者を追悼した。
トランプ氏はここ数週間、キャンペーンスタッフを何度も入れ替えているという。2016年と2020年の選挙対策本部長コーリー・レヴァンドフスキ氏などベテランスタッフを復帰させたと伝えられている。