パンデミックを追い風に事業を急拡大したウルトラファストデリバリーのスタートアップ2社が、相次いでサービス停止に追い込まれた。
ニューヨークポスト紙によると、ニューヨーク市やボストンで事業を展開するフリッジ・ノー・モア(Fridge No More)は10日、従業員に送ったメールで、オーダーを受けるのを停止するよう通達した。同社は同日、ニューヨーク州に対して、671人の従業員を解雇し、市内31箇所の配送拠点を閉鎖すると通知したと伝えたという。
CNNによると、同社のPavel Danivol 最高経営責任者は従業員に送ったメールで「劇的で、予期せぬ資金不足と、売却が失敗したため」と営業停止の理由を説明。「この書簡は、大量解雇があることを通知するものである」と通達した。
売却交渉の相手は明らかにされていないが、情報筋はフードデリバリー大手のドアダッシュと話している。同社は、フリッジ・ノー・モアの不動産や製品など、一部の資産の獲得を検討しており、過去数週間、ブリッジ・ファイナンシングを提供していたともいう。
Danivol氏はロシア出身の実業家で、インベスターには、ロシアや米国、イスラエルで事業を展開するベンチャーキャピタル、アルター・キャピタルが含まれているという。
この前週には、ニューヨークとシカゴで展開していた同業のバイク(Buyk)が事業を停止したと報じられていた。バイクも、ロシア人起業家によるスタートアップで、ロシア最大の国営企業が出資するベンチャーキャピタルなどから資金調達を行っているという。
第一報を伝えたニューヨークポスト紙によると、同社は停止理由に、米国のロシア制裁と、プーチン大統領によるロシアマネーの国外流出に関する制限を挙げ、売却や米国での資金調達、または倒産を検討していることを明らかにした。CNNは、11日時点で、同社の従業員870人がレイオフされたと伝えている。さらにブルームバーグは17日、同社が破産申請をしたと報じた。
ウルトラファストデリバリーの激戦区
ウルトラファストデリバリーは、日用品や食品を注文から15分ほどで届けるという超高速の宅配サービス。ニューヨーク市は多数の企業がしのぎを削る激戦区となっている。Patchによると、フリッジ・ノー・モアがサービスを開始したのは2020年10月で、 ジョーカー(Jokr)、ゴリラズ(Gorillas)と続き、2021年9月にバイクがローンチ。この翌月にはフィラデルフィアが本拠地のゴーパフ(GoPuff)が、12月にはイスタンブールのGetirが参入した。
パンデミックを追い風に市場が急拡大したが、将来の成功の可能性を疑問視する声も上がっている。フード業界のコンサルタント、ブリテイン・ラッド氏はCNNに「収益化の道筋が見えない」と指摘。「ベンチャーキャピタルからの資金調達に頼っており、これこそが唯一存在できる理由だ」と話した。
急激な拡大は、小売業界や議員らからの反発を招いている。これらの企業の多くは、配送時間を短縮するため、住宅地などで小売用にゾーニングされた区画に配送センターを設けている。これら施設は買い物客に解放しておらず、「ダークストア」などと呼ばれている。ボデガなど地元商店の脅威になると懸念する声に加え、一部の議員からは、ゾーニング違反を指摘する声が上がっている。これらの問題を避けるため、最近では小売スペースを設けるなどの対策を講じている企業もあるという。