ロシア・ウクライナ戦争から2ヶ月を過ぎるなか、スウェーデンやフィンランドがNATO北大西洋条約機構に加盟する意思を鮮明にするなど、東欧を中心に欧州では世界大戦の再来を警戒する声が強まっている。また、ロシアは日本周辺でも軍事的にけん制する動きを見せるなど、予断を許さない状況が続いている。
一方、ロシア・ウクライナ戦争を巡って、最近台湾では大きな変化が生じている。台湾のシンクタンク「台湾民意基金会」が3月に発表した世論調査によると、台湾有事において米軍が関与すると回答した人は34.5パーセントとなり、昨年10月に実施された同調査から30.5パーセントも大幅に急落した。また、同様に日本の自衛隊が関与すると回答した人は43.1パーセントとなり、昨年10月に実施された同調査から14.9パーセント減少する結果となった。この世論調査から明らかなのは、台湾市民はロシアによるウクライナ侵攻と中国による台湾侵攻を照らし合わせ、ウクライナに直接軍事関与しない米国へ警戒感を強めていることだ。
「自己防衛意識」に高まり
バイデン政権の中には、「ロシアと直接交戦することになれば第3次世界大戦に繋がる」、「昨年夏のアフガニスタンからの米軍撤退のように、米国はもう世界の紛争に介入できない」という政治的思惑があることは間違いない。しかし、ロシアとウクライナ以上に、中国と台湾では軍事力に差があり、台湾はそういったところも含めて懸念を強めているのだろう。
実際、台湾政府も懸念を強めている、たとえば、台湾政府は4月、中国による軍事侵攻に備えて民間防衛に関するハンドブックを初めて公表した。ハンドブックには実際有事となった場合に市民が身を守るためのガイドラインが記され、水や食糧の補給方法、スマートフォンアプリを使った防空壕の探し方、救急箱の準備方法、空襲警報の識別方法などが詳細に記述されている。また、台湾国防部も3月、中国軍の脅威が現実味を帯びてきているとして、軍事訓練義務の期間を現行の4ヶ月からさらに延長する可能性を示唆した。世論調査でも75.9%が「1年に延ばすべき」との見解を示しており、台湾市民の間でも自己防衛意識が高まる傾向にある。
台湾有事は日本有事
こういった台湾での大きな変化は、ウクライナから波及していることは間違いない。台湾もウクライナに侵攻したプーチン政権を非難し、欧米主導の対露経済制裁に参加している。こういった台湾の変化を、台湾有事と切っても切れない関係にある日本は本当に真剣に考えるべき時期に来ている。台湾有事で仮に米軍が参戦する場合、その出発地点は地理的にも近い沖縄本島になる。要は、中国軍からすると対立する米軍の基地を無力化する必要性が生じるわけで、そうなれば中国軍が嘉手納や普天間を無力化する可能性が浮上し、それは日本の安全保障に直結することになる。台湾有事は日本有事と切れない関係にあり、日本としては台湾との軍事安全保障の協力を強化することも重要となろう。