銃乱射事件が再び全米を震撼させた。米ニューヨーク州バッファローのスーパーマーケットで5月14日、18歳の白人の男がライフル銃を乱射し、黒人の買い物客や店員ら13人が撃たれ、10人が死亡、3人が負傷する事件が発生した。男は軍服を身に着け、まず駐車場で警備員らを撃ち、その後店内に進入して買い物客らに向け50発近くを乱射したとされる。その後、男は警察に逮捕されたが、自らが白人至上主義者、反ユダヤ主義者であることを自認し、地元の大陪審は6月1日、人種などを理由とした憎悪を動機とする国内テロ罪や第1級殺人罪など25件の罪状で男を起訴した。
以前、バイデン大統領も同事件を“国内テロ”と呼び、地元の大陪審が“国内テロ”罪で起訴した事実からも、この事件をテロ事件と呼ぶことに違和感を感じる人は少ないだろう。しかし、この事件は単なる米国内で発生した1つのテロ事件ではなく、テロ・過激主義の研究からみると別の側面が強く滲み出るのだ。
海外の事件が刺激に
まず、この事件は国内テロである一方、国際的な極右テロと位置付けられる。事件前、男は180ページにも及ぶ犯行予告のマニフェストをインターネット上に公開し、その中で2019年3月のニュージーランド・クライストチャーチで起きたイスラム教礼拝所(モスク)銃乱射テロの実行犯ブレントン・タラント被告、2011年7月のノルウェー・オスロで起きた連続銃乱射テロの実行犯アンネシュ・ブレイビク被告を称賛するコメントを記し、タラント被告が強調する「Great replacement theory(偉大なる交代論)」に言及するなど、外国で過去に起きた極右テロ事件から強い刺激を受けていた。
タラント被告は、犯行前に「Great Replacement(偉大なる交代)」と題するマニフェストを「8chan」と呼ばれるネット掲示板サイトに投稿した。タラント被告はその中で白人の出生率の低下を問題視し、欧州各国を訪れた際に白人の世界が移民・難民に侵略されていると危機感を抱き、反イスラム、反移民など強い排斥主義を覚えるようになったと語っている。また、移民・難民へ寛容なドイツのメルケル首相やロンドンのサディク・カーン市長を非難する一方、トランプ大統領(当時)を「白人至上主義のシンボル(Symbol of white supremacy)」などとして称賛し、さらには、ノルウェー・オスロ銃乱射事件を実行したブレイビク被告から強い影響を受けたと明らかにした。
そのブレイビク容疑者は2011年7月、オスロにある政府庁舎を爆破したのち、近くにあるウトヤ島で労働党の青年部を狙って銃を無差別に乱射し77人を殺害した。ブレイビク被告もネット上にマニフェストを公開し、イスラムから自国を守ることは使命であり、多文化主義を貫く政権に強い不満を抱いたと明らかにした。
(後編へ)