米国防省は6日、ウクライナに対する追加約30億ドルの安全保障支援を発表した。一度の支援としては過去最大規模。このうち28.5億ドルは、ドローダウンと呼ばれる、大統領権限により在庫からの供与を命じるもので、残りの2億2500万ドルを「ウクライナ軍の長期的能力と近代化に貢献する対外軍事融資」だとしている。
ドローダウンには、今回初めてM2ブラッドレー歩兵戦闘車が含まれることになった。
この日会見を行った国防総省のライダー報道官は、ブラッドレー歩兵戦闘車50台と、これに使用可能なTOW対戦車ミサイル500発、25ミリ弾薬25万発を提供すると説明。「機動性に優れ、搭載火力を発揮し、対装甲能力を有する装軌式装甲車」だと述べ、「ほぼすべての天候と地形において、ウクライナ軍が複雑な作戦行動を遂行する能力を高めることになる」と語った。
同席したクーパー副次官補は、供与決定のタイミングについて、「ウクライナ軍にとって、戦場における活動を変えるためにブラッドレーを活用する適切な時期」にあると話した。メンテナンスなど維持管理上の問題について、ウクライナ国内、または同盟国が提供する「遠隔メンテナンス」を利用し、熟練度が増しているとも語った。
クーパー氏はさらに「(ウクライナ軍に対する)訓練プログラムを拡大している」と明かし、今月末には「諸兵科連合訓練」が開始されると説明。ブラッドレーの訓練には2~3ヶ月を要するとした上で、新訓練プログラムのもとで、毎月一個大隊分に相当する約500人の兵士がブラッドレーの訓練を受けることになるだろうと話した。
ブラッドレー歩兵戦闘車は、25mm機関砲とTOW対戦車ミサイル、7.62mm機関銃など高い戦闘力備える一方、M113装甲兵員輸送車より高速で、保護性に優れるという。
米陸軍ヨーロッパの元司令官でもあるマーク ハートリング氏はツイッターで「ブラッドは戦車ではないが、戦車キラーになりうる」と火力の強さを指摘した。
ブラッドレーに加え、今回、M-113装甲兵員輸送車100台、MRAP(耐地雷保護車両)55台、ハンビー138台の追加供与が決定した。さらにウクライナ軍の保有する固定翼機や回転翼機に搭載可能なズーニー・ロケット弾追加4,000発、RIM-7対空ミサイルを提供するとし、ライダー報道官は後者について、ウクライナのソ連時代の地対空ミサイルに統合可能だと述べた。
ブラッドレーはウクライナが以前から強く供与を希望していた兵器の一つで、ウクライナ国防省のキリロ・ブダノフ情報総局長は先日、ABCニュースのインタビューで、「待っている」と語っていた。
戦車供給に道
米政治ニュースサイトのポリティコは、二人の当局者と専門家の話として、近代型の歩兵戦闘車の供与によって、より強力な戦車を供給する道が開かれる可能性があると伝えた。これには、西側が供与に後ろ向きだったドイツのレオパード戦車や米軍のM1エイブラムスが含まれるという。
今回の発表に合わせ、ドイツはマルダー歩兵戦闘車を提供する意向を明確にし、この直前には、フランスがAMX-10RC装輪装甲車を供給する計画を示している。
レオパードやエイブラムスは、ウクライナが使用するソ連時代の戦車に比べ、機動性に優れ、射程距離が長く正確であり、戦場では旧式戦車はおろか、西側の歩兵戦闘車よりも部隊の保護に効果的だという。
米欧州陸軍のベン・ホッジス元司令官によると、ブラッドレーは、エイブラムと連動し、「補完的」な能力を発揮するよう設計されているという。同氏は「これは、これまで政権が消極的だったものを提供する次のステップだ」と主張した。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、AMX-10RCの供与の約束を受け、テレグラムの投稿で、同車両を「車輪付き戦車」と呼び、「西側の戦車がまだウクライナに供給されていない理由を説明する合理的な理由はない」と戦車の供給を求めた。