連続殺人犯「ブッチャーベイカー」ロバート・ハンセンの犠牲者 37年ぶり身元判明

2439

1980年代前半にアラスカ州アンカレッジで起きた連続殺人事件の犠牲者の身元が、DNA鑑定と遺伝子系譜を利用した捜査で、37年ぶりに判明した。AP通信が伝えた。

アラスカ州捜査局の未解決事件捜査本部は22日、事件の犠牲者のうち身元が分からず「ホースシュー・ハリエット」と呼ばれていた女性について、当時19歳のロビン・ペルキーさんと判明したことを発表した。

アラスカ州公衆安全局のジェームズ・コックレル局長は声明で、「37年間、事件解決に向け取り組んだ職員、捜査官、分析官たちの働きに感謝したい。彼らの努力と粘り強さがなければペルキーさんの身元が判明することはなかった」と述べた。

事件は、1970年代から1980年代前半にかけて、ベーカリーを経営していたロバート・ハンセンが、主にセックスワーカーの女性を誘拐し、荒野に連れ出すなどして殺害を繰り返したもの。当時アンカレジの町を震撼させ、のちにハンセンは「ブッチャー・ベイカー(肉切りパン屋)」と呼ばれた。

当時のアンカレッジでは、1,300kmに及ぶ石油パイプライン「トランス・アラスカ・パイプライン」の建設プロジェクトにより、好待遇の雇用が生まれ、町は急速に発展した。一方で、労働者の金を目当てにしたセックスワーカーや麻薬の売人などの温床にもなっていた。この多くは短期間でアラスカを離れ、また西海岸を巡業するダンサーなどもいたため、失踪しても問題になることはほとんどなかった。

Advertisement

1983年に逮捕されたハンセンは4人を殺害した罪で有罪となったが、その後、さらに複数の女性を殺したと自供した。捜査官らがハンセンを連れて現場へ向かうと、ハンセンは犠牲者17人の遺体を埋めたという場所を指し示した。1984年、警察が改めて現場を捜索した際、女性8人の遺体を発見。遺体は合わせて12人となった。このうちペルキーさんを含め、これまでに11人の身元が判明した。

ハンセンを逮捕に導いた元警察官、グレン・フロスさんは2008年、地元紙アンカレッジ・デイリーニュースの取材に対し、ハンセンは当初、犠牲者を無差別に選んでいたが、やがてストリッパーや売春婦は姿を消しても気づかれにくいことに気づき、これらにターゲットを絞ったと説明している。

2013年のニコラス・ケイジ主演映画「フローズン・グラウンド」では、ハンセンの事件をめぐる捜査から逮捕までの経緯が描かれている。

ペルキーさんの身元が特定されるまで

警察によると、ペルキーさんの遺体はアンカレジ近郊のホースシュー湖近くで、地面に横たわった状態で発見された。身元確認の手がかりはなかった。ハンセン自身は、1983年の冬にアンカレッジのダウンタウンで誘拐したセックスワーカーで、小型機に乗せて湖に連れ出し、殺害したと供述した。名前は知らなかった。

検視結果から遺体は17~23歳の白人女性であることが分かったが、捜索願が出されている人物とは一致せず捜査は難航。遺体は身元不明者の共同墓地に埋められた。

2014年、75歳のハンセンが獄中で死亡した同年に捜査が再開された。掘り起こした遺体からDNAサンプルを抽出し米連邦捜査局(FBI)の行方不明者データベースに登録したが、この時は身元特定には至らなかった。

2020年9月、捜査当局は、遺伝子系譜を利用する方法で再び身元の特定を試みた。まず骨のサンプルを研究所に送り、追加のDNAを取り出して全ゲノム配列を解析。そのデータをもとに別の研究所でDNAプロファイルを作り、今年4月に一般のアクセスが可能な遺伝子系譜データベースに登録した。すると遺伝子の近い複数の人物が浮かび、これをもとに家系譜が作成された。結果、1963年にコロラドで生まれたロビン・ペルキーさんの可能性が高いことが分かった。

最終的に、アーカンソー州の近親者とDNAの照合を行い、ペルキーさんと特定されたという。

近親者の話によると、ペルキーさんは1970年代後半アンカレッジに住んでいて、一時アーカンソーに移ったが、1981年からは父親と継母に引き取られ、再びアラスカに戻った。

この後、ペルキーさんはアンカレッジの路上で暮らすようになり、1982年後半か83年初め頃から足取りが不明となった。父親夫婦はすでに亡くなったが、なぜペルキーさんの捜索願を出さなかったかは、親族も分からないとしている。

州警察の未解決事件捜査本部、ランディ・マクフェロン氏は、「女性の身元が特定され、遺族が事件に終止符を打てたことを嬉しく思う。遺伝子系譜は未解決事件を解決に導き、身元不明だった人の特定につなげる大きな一歩になり、このような形で実を結んだことに満足している」と語った。

警察は、ペルキーさんのため名前入りの新たな墓石を用意したという。

残りの遺体も身元解析へ

警察の広報担当、オースティン・マクダニエル氏によると、未だ身元が特定されていないのは、アンカレジ近郊のエクルートナ湖で見つかったことから「エクルートナ・アニー」と呼ばれている女性のみだという。この女性は、ハンセンの最初の犠牲者と考えられている。

警察はこの女性についても同技術を用いて身元の特定を進めるとしている。

Mashup Reporter 編集部
Mashup Reporter 編集部です。ニューヨークから耳寄りの情報をお届けします。