首都ワシントン空中衝突 専門家たちが考えていること

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Kit Leong/Shutterstock

首都ワシントンのレーガン・ワシントン・ナショナル空港付近でおきた旅客機と陸軍ヘリの衝突事故をめぐって、様々な問題や疑問の声が上がっている。

事故が発生したのは1月29日(水)の午後9時頃。乗員乗客64人を乗せたアメリカン航空5342便と訓練中の兵士3人が乗ったシコルスキーH-60ヘリコプター「ブラックホーク」が空中衝突し、ポトマック川に墜落した。捜索作業が続いているが、生存は絶望的と見られている。金曜午後の時点で41人の遺体が回収された。

ブラックホークに搭乗していたのは第12航空大隊の兵士らで、先日国防長官に就任したピート・ヘグセス氏は、3人は「定期的な年次再訓練」の最中だったと明らかにした。USA Todayは、壊滅的な事態が発生した場合に指導者らを避難させる「政府存続計画」を遂行するための訓練だったと報じている。政府存続計画は、ロシアとの核戦争の脅威があった冷戦時代に形成された。

事故調査を担う国家運輸安全委員会は、30日以内に暫定報告書を提出する予定だとしている。また、30日夜に旅客機のコックピットのボイスレコーダーとフライトデータレコーダーを回収したと報じられている。

管制官とヘリのミスコミュニケーション?

事故前の航空管制官とブラックホークの会話によると、両者は旅客機が目で識別できる状態にあり、ブラックホークが目視により安全な距離を維持する責任を負うことを2度にわたって確認していた。

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元ブラックホークのパイロット、エリザベス・マコーミック氏はCNNのインタビューに、ブラックホークが誤った飛行機を認識していた可能性を指摘した。

マコーミック氏は、現在出回っている衝突時の上空の映像に離陸直後の飛行機が映っている点を挙げた上で、「航空交通管制は、5時の方向の飛行機を視界に捉えているかと尋ねるべきだった」と語った。「もしそうしていれば、ブラックホークは機動性があり、すぐに移動することができた」と続けた。

元陸軍および州兵ブラックホークヘリコプターパイロットで昨年の選挙で下院議員に選出されたゲイブ・エバンス氏(コロラド、共和党)も、ローカルテレビ局の取材で同様の考えを示した。

エバンス議員は「暗視ゴーグルを着けた視界は、およそ15分の1くらいだ。空間認識がすこし失われる」とした上で、「ブラックホークが航空交通管制と会話をしていたとしても、随伴する航空機を誤認識した可能性は十分に考えられる」と語った。

暗視ゴーグルの影響?

ヘグセス国防長官は、30日に公開したビデオメッセージで事故機の隊員らは暗視ゴーグルを装備していたと明らかにした。

連邦航空局によれば、暗視ゴーグルは操縦上の安全性を高め、パイロットが夜間に障害物を視認して回避する能力を向上させるように設計されている。

しかし、世界有数の離発着数を有する首都ワシントン周辺での使用の有効性に疑問の声も上がっている。

People誌のインタビューに応じた現役の陸軍パイロットは、「これらのゴーグルは月明かりや星の光だけがあるような状況のために設計されている」と指摘。「たくさんのものが動き回り点滅していると混乱する可能性がある。空で何が起きているのか確認することが困難になる可能性がある」と語った。

先述のエリザベス・マコーミック氏も、「非常に慌ただしい空域で、灯りがたくさんあり、川面に反射している。そう考えると、高度感覚を失いやすい」とゴーグルが障害になった可能性を指摘した。同氏はまた、事故現場のような混雑した空域で「有視界飛行モード」で飛行するには、乗組員は最低4名いるべきだとも語っている。

なお、事故対応のためにレーガン空港に設置された統合指揮所のジョナサン・コジオル退役陸軍准尉は、陸軍飛行士は夜間任務中に暗視ゴーグルを利用できるが、必ずしも着用する必要がなく事故当時に着用していたか明らかでないとしている。

人員不足?

ニューヨークタイムズが連邦航空局の内部報告書に基づき報じたところによると、管制官はヘリコプターに指示をすると同時に離発着する航空機にも指示を出していた。通常は異なる二人の管制官に割り当てられるという。

同紙はまた、313の管制施設の90%が連邦航空局の推奨人数を下回っており、73施設で少なくとも労働力の1/4が不足していると報じている。連邦航空局では新たな管制官の雇用を進めているが、施設によっては訓練に 4 年以上要するなど、すぐに人員不足が解消できるわけではない。レーガン航空では訓練に16か月近くかかっているという。

高度の謎

レーガン空港に向かっていた5342便の衝突時の高度は約400フィート(約122 メートル)だった。

一方、ポトマック川上空でブラックホークに許可された制限高度は200フィート(約60メートル)と報じられている。

能力は十分なはずだった。

前出のコジオル氏によると、隊員らは「非常に経験豊富なグループ」で、男性のインストラクターパイロットは1,000時間以上、衝突時に操縦していた女性パイロットは500時間以上、クルーチーフも数百時間の飛行経験があった。

国家運輸安全委員会の元調査官はCBSに、ブラックホークが制限高度を超えて飛行した問題について、「それこそが最も答えを必要とする疑問だ」と述べるなど、調査の最大の焦点になる可能性を語っている。

事故原因の早期解明が望まれるところだが、国家運輸安全委員会による航空事故の調査は、全体で1~2年かかる可能性があるという。

Mashup Reporter 編集部
Mashup Reporter 編集部です。ニューヨークから耳寄りの情報をお届けします。