バイデン大統領の記憶の悪化を記した特別検察官レポートを受け、解任を要求する声が上がる中、ホワイトハウスはダメージコントロールの対応に追われている。
バイデン氏が機密文書を自宅や事務所に保管していた問題で、メリック・ガーランド司法長官から特別捜査官に任命されたロバート・ハー氏は、8日に公表された調査報告書で、刑事訴追を見送るべきとする一方で、最高司令官の記憶力の問題に言及。検察のインタビューに応じたバイデン氏は、副大統領の時期や長男の死亡時期を思い出せないほど「記憶が著しく限られていた」とした。聴取に応じる様子は「同情的で善意に満ちた記憶力の弱いお年寄りの男性」だったと述べ、「故意の立証を必要とする重大犯罪で有罪判決を受けるべきだと陪審に納得させるのは難しい」と指摘した。
バイデン氏は数時間後に会見を開き、「(息子の死亡時期を覚えていなかった件について)一体全体、どうしてそんなことを持ち出すのか」と怒りを滲ませ、「私の記憶に問題はない」と反論した。
カマラ・ハリス副大統領は、報告書に書かれた内容は「根拠がなくて不正確、不適切」であり、「事実としてこれ以上の間違いはない」と非難。「明らかに政治的動機に基づいている」と主張した。ホワイトハウス法律顧問室のイアン・サムズ報道官も「報告書が大統領に対する不当かつ不適切な批判に、なぜ時間を費やしているのか疑問」と、検察官の動機に対する疑念を述べた。
一方、保守派の一部からは、バイデン氏を他の候補者に取り替えようとする民主党の計画の一環といった陰謀論も浮上している。
今年1月に共和党の大統領予備選から離脱し、トランプ氏の支持を表明したヴィヴェク・ラマスワミ氏は9日、FOXニュースのインタビューで「ジョー・バイデンは候補者にならない」と主張した。
「民主党の支配層が、私はそれがディープ・ステートだと信じているが、ジョー・バイデンは操り人形としての利用価値を失ったと判断した。彼らは罠を仕掛けたのだと思う」と述べ、民主党はバイデン氏を下ろしてミシェル・オバマ氏を擁立するとの考えを示した。
テキサス州のダン・パトリック副知事もX(旧ツイッター)に「一年以上も前から何度も言ってきたように、ジョー・バイデンは指名されない。ミシェル・オバマが候補者になる可能性が高い」とコメント。「民主党のディープ・ステートがバラク・オバマによって運営されていることは明らかで、11月に勝つためには彼を下ろさなければならないと悟ったのだ」と続けた。
バイデン氏が撤退したらどうなる?
こうした主張の信憑性はさておき、もしもバイデン氏が夏の党大会までに大統領選から撤退したらどうなるか。
民主党の指名を獲得するには、各州を代表する代議員の過半数の支持を得なければならない。代議員の数は各州の予備選の結果に基づいて、各候補者らに割り振られる。
しかしすでに複数の州で予備選が実施され、NBCニュースによると80%の州で投票用紙に載るための手続きが締め切られている。つまり、これから参入する新たな候補者が、予備選で代議員の過半数を確保するのは不可能な段階にある。
Skyニュースによると、ブルッキングス研究所のエレイン・カマルク氏は「代議員が誰の代表に選ばれたかに関係なく、基本的に(誰に投票するか)自分で決めるという昔ながらの党大会になるだろう」と指摘している。
民主党の党大会では、1回目の投票は特定の候補者を支持することを約束している代議員(pledged delegates、 3,933人)によって行われる。いずれの候補者も過半数に達しなかった場合、すべての代議員は誓約を解除され、もともと宣誓を要求されていない代議員(superdelegates、739人)を加えて追加の投票を実施する。最終的に過半数を得た者が指名を獲得する。
党大会後にバイデン氏が撤退した場合、民主党全国委員会の委員長が、約500人の委員全員を招集して「特別会議」を開催する。規則上では、出席者の過半数の同意によって、新たな大統領候補と副大統領候補を選出することができるという。
大統領権限の承継規則と異なり、バイデン氏が撤退したからといってハリス副大統領がその代わりの候補者になる仕組みはない。立場的に有利な可能性もあるが、バイデン氏が獲得した代議員が自動的にハリス氏に移ることはなく、本人が党大会で代議員の過半数を獲得する必要がある。