後継者を選ぶ密室選挙『コンクラーベ』の内側とは?フランシスコ教皇が死去 

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21日、カトリック教会の最高指導者フランシスコ教皇(88)が、その生涯を静かに閉じた。

ケビン・ファレル枢機卿は、7時35分に「父の家に戻られた」と明らかにし、生涯を主と教会の奉仕に捧げた教皇は「誠実さと勇気、普遍的な愛を持ってとりわけ最も貧しい人々や疎外された人々のために生きるよう、私たちに説いた」と語った

AP通信によると、ローマ教皇庁は教皇は脳卒中により昏睡状態となり、心不全に陥ったと発表した。教皇は近年、健康の悪化に苦しめられた。今年2月に両側肺炎と診断され、1ヶ月を超える入院治療を必要とした。危篤状態からのバチカンへの復帰を、医師はニューヨークタイムズの取材に「奇跡」だと語っていた。

新たな教皇は、枢機卿団が開催する「コンクラーベ」と呼ばれる会合で、投票によって決定される。投票資格は80歳以下の枢機卿に限定される。

ホーリークロス大学の宗教学教授、マシュー・シュマルツ氏によると、コンクラーベの慣習は、1274年にグレゴリウス10世が、自身の選出に3年もかかったことへの対応として確立した。

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枢機卿団は伝統的にイタリア人をはじめとするヨーロッパ出身に占められてきたが、現在は出身国の多様化が進んでいる。投票資格のある80歳以下の枢機卿は138人おり、出身国は90カ国に及んでいる。このうちの80%はフランシスコ教皇によって任命された。

America Magazine』によると、第260代ローマ教皇、ピウス12世の選出時(1939年)は、89%がヨーロッパ(56%がイタリア人)だった。フランシスコ教皇が選ばれた2013年のコンクラーベでは、ヨーロッパの比率は52%(イタリア人は24%)に低下した。次のコンクラーベでは、初めてヨーロッパが過半数を下回る。その比率は40%(イタリア人11%)で、フランシスコ教皇と同じラテンアメリカの枢機卿が17%。アジアからは9%から18%へ、アフリカからは9%から13%へ増加している。米国は2013年の9%からわずかに減少し、7%となっている。こうした変化は、ローマ教皇庁とイタリアの枢機卿が特定の候補者の下に団結することで結果を左右できる時代が過ぎ去ったことを物語っている。

シュマルツ氏が『The Conversation』に寄稿した記事によると、枢機卿団はコンクラーベに先立って「総会」を開き、教会が直面する問題について話し合う。これは新任の枢機卿や地方の枢機卿らが他の枢機卿たちと知り合う好機でもある。政治的駆け引きが行われる可能性もあるが、教皇の地位を望む者がロビー活動をするのは、マナー違反で「不吉」なこととされている。ましてや金銭により票を買収するのは「聖職売買」と呼ばれ、教会法に抵触する。

コンクラーベが始まるのは教皇の葬儀の2~3週間後。フランシスコ教皇の選出時は、枢機卿たちがシスティーナ礼拝堂に行進し、讃美歌を歌い、福音書に手をついて儀式の秘密を守ることを誓う様子が中継された。これを終えると、教皇典礼長がラテン語で「エクストラ・オムネス」(全員退出)と唱え、礼拝堂の扉が閉められる。密室でのコンクラーベがスタートする。

コンクラーベの機密を守るため、教会にはファラデーケージなどを含む通信機器の電波を妨害する措置が施される。『America Magazine』のジョージ・オコネル氏によると、前回は、システムを設置するために教会の床が1メートルほど高くされ、木板で覆われた。また、扉の外に待機するスイスの衛兵に漏れ聞こえないよう、マイクの利用も禁じられたという。

2013年のコンクラーベのリーク情報に基づくオコネル氏の記事は、プロセスをより詳細に説明している。

投票に際しては各3名から成る「投票監督者(scrutineers)」、病気や高齢で会議に参加できない選挙人の投票用紙を届ける「病者係(infirmarii)」、「再検査者(revisers)」が、最も若い枢機卿選挙人によって無作為に選ばれる。

その後、ラテン語で「私は最高位の法王を選出する」と書かれた投票用紙が配布される。各枢機卿は周囲に見えないよう折り曲げた記入済みの投票用紙を、親指と人差し指で挟んで投票監督者の待つ祭壇へと運ぶ。投票者は用紙を高く掲げて、「私の投票は、神の御前にあって選出されるべきと私が考える者に与えることを、審判者である主キリストを証人として誓う」と宣誓。用紙を皿の上に置き、その皿を傾けて壺の中へと落とす。全員が投票を終えると、監督者の一人が壺の中の用紙をふり混ぜ、同じ形の2番目の壺に一枚づつ移す。投票者と用紙の数が一致しないと、その投票は無効と宣言される。

その数が一致すると、開票手続きに進む。1番目の監督者は投票用紙を黙読して、2番目に渡す。2番目も黙読し、3番目に渡す。3番目は書かれた名前を読み上げ、会場に知らせる。結果は用紙に記入され、投票用紙には針で穴が開けられ糸が通される。投票用紙を読み上げ終えると、糸の両端に結び目を作ってまとめる。

新教皇の選出には3分の2以上の票が必要で、これに達する者がいない場合、投票用紙は礼拝堂の焼却炉で燃やされる。礼拝堂の煙突から黒煙が上がると、選挙がまだ続いていることを意味する。ヨハネ・パウロ2世の選出時(1978)に煙の色をめぐって混乱が生じたため、煙を黒くするために化学化合物が使用されているという。

リークされた情報によると、2013年の1回目の投票結果は、ミラノ大司教のスコラ枢機卿が30票のトップ。ブエノスアイレスのベルゴリオ枢機卿(フランシスコ教皇)は26票で2位につけ、ウエレット枢機卿22票(カナダ)、オマリー枢機卿10票(アメリカ、ボストン)、シェレル枢機卿4票(サンパウロ)と続いた。

最大の驚きはベルゴリオ枢機卿だったが、専門家によると北米の司教の得票数もコンクラーベ史上最高だった。こうした有力候補のほかに、ニューヨークのドラン枢機卿を含む5人が、2票ずつ獲得した。

5回の投票の末、2013年の3月13日にベルゴリオ枢機卿が第266代ローマ教皇に選出された。

先述のシュマルツ氏によると、コンクラーベは短期間で終わることが多いが、歴史上かなり長引いた例もある。ベネディクト14世を選出した1740年のコンクラーベは、181日間続いたという。候補者が十分な票数を獲得すると、「教皇としての選出を受け入れますか?」と尋ねられ、「受け入れます」と答えることで、新たな最高指導者となる。新教皇の誕生は、白煙とともに世界に知らされる。