既に多くのメディアでも報道されているが、韓国で3月9日に実施された大統領選挙の結果、保守野党「国民の力」のユン・ソンニョル氏候補が与党「共に民主党」のイ・ジェミョン候補との接戦を制した。これによって、戦後最悪とまで揶揄された日韓関係にどのような変化が生じるのだろうか。
まず、先に結論となるが、これによって戦後最悪の関係は大幅に改善されることになりそうだ。ユン氏は当選直後に米国のバイデン大統領と会談し、対北朝鮮で日米韓3カ国の協力の重要性を強調し、ユン新政権で外相候補に指名されたパク・チン氏も、慰安婦問題をめぐる7年前の日韓合意について公式な合意だとの見解を示している。また、既にユン政権の特使団が日本を訪問して岸田総理などと会談し、関係改善の必要性を共有している。
日本の安全保障に好都合
日本の安全保障を考えれば、ユン政権の誕生は日本にとっても願ってもないチャンスだと言える。尖閣諸島や台湾など中国による海洋覇権、繰り返される北朝鮮による核・ミサイル実験など、日本を取り巻く安全保障環境がいっそう厳しくなるなか、ロシアによるウクライナ侵攻によって現在日露関係が急速に冷え込んでおり、日本は3正面から脅威に対応する恐れがある。
日本を取り巻く安全保障バランスを考慮すれば、隣国である韓国との安全保障上の協力は極めて重要となろう。当然ながら、日韓の間には難しい戦争と歴史の問題があり、自衛隊が韓国軍と韓国内で合同軍事演習するなどは考えにくく、日米同盟のレベルにまで日韓が軍事接近することはない。しかし、米国からすれば両国とも軍事同盟国であり、米国は長年、安全保障上の日韓接近を推奨してきた。日韓の安全保障上の協力は、今後政策論争を通してより中身が具体化されていく可能性がある。
クアッド接近なら、中国の覇権主義的行動エスカレートの可能性
また、ユン政権はそれに留まらず、日本と米国、オーストラリアとインドによって構成されるクアッドに接近する姿勢を見せている。日米豪印によるクアッドは、安倍元首相が提唱した「自由で開かれたインド太平洋構想」の実現に向けた国家間枠組みであるが、仮に韓国が加わることになれば、東アジアの安全保障環境も変化する可能性がある。これまで韓国は経済的理由から中国との関係を重視してきたが、韓国のクアッド接近、参加によって中韓の関係が冷え込み始め、中国が海洋覇権などで行動をエスカレートさせてくる恐れもある。
ユン新政権では政策方針でまだ見えない部分があり、日韓関係が一気に改善するかは分からない。しかし、今後5年間というスパンで見れば、日韓関係が改善されていくことは間違いない。日本は協力面から韓国をステークホルダーと位置づけていくべきだろう。