山のように訴訟を抱えるトランプ前大統領は、大勢の弁護士を使うことで知られる。AP通信によると、トランプ氏の特別政治委員会「Save America」が2022年1月以降に支払った法的費用は計3,700万ドル近くに上り、その支払い先は60を超える法律事務所または個人におよんでいる。
これらの弁護士のなかでも、トランプ氏が「戦士」、「偉大な弁護士」と呼び信頼を置くのがアリーナ・ハバ氏。ニューヨークの一連の訴訟を担当し、メディアに出演する機会も多い彼女だが、その成果をめぐって疑問の声が上がっている。
26日、女性作家E・ジーン・キャロル氏との間で争われた名誉毀損に関する裁判で、ニューヨークの陪審はトランプ氏に8,330万ドル(約120億円)の損害賠償支払いを命じた。
予想外の賠償の大きさが話題になったが、この訴訟でトランプ氏の主任弁護士を務めたのがハバ氏だった。
この結果に、トランプ氏の元弁護士だったティム・パルラトーレ氏は、CNNのインタビューで、「私なら彼女に代理人をさせたことを後悔するだろう」と一言。「これら両方の裁判で、彼は基本的に無防備だった。もっと違う結果になっていたかもしれない」と加えた。
キャロル氏との裁判は今回が2回目で、昨年の1回目の審理では、名誉毀損に加えて、トランプ氏がレイプをしたかどうかが争われた。陪審は5月に評決に達し、レイプは認めなかったものの、トランプ氏に性的虐待と2022年のトランプ氏の発言について名誉毀損の責任があると認定。500万ドルの損害賠償の支払いを命じた。
パルラトーレ氏は、今回の裁判は、トランプ氏にとっては最初から負け戦で、問題は敗北の大きさだったと指摘。賠償額を抑えるために陪審に対してベストなプレゼンテーションをしなければならなかったが、「彼女がプロセス全体を通じて行ったことは、助けになっていなかった」と語った。トランプ氏は上訴に際して弁護士交代を検討すべきかと聞かれると、「もちろん。事件を担当した同じ弁護士を使うべきではない」と述べ、「一度審理をした弁護士は、個人的なバイアスを持つことになるから、一般的に勧められない」と語った。
MSNBCの番組に出演した元共和党全国委員会の委員長で、弁護士のマイケル・スティール氏は、ハバ氏は使命を理解していないと批判した。
スティール氏は、ハバ氏の仕事ぶりを「演出的で、トランプ氏をなだめるものだった。目の前にある事実に対処するためのものではなかった」と指摘。「第一に、この裁判は、トランプ氏が性的犯罪者に認定されるのを阻止しようとするものではない。それは、すでに済んでいることだ」とした上で、「彼女は自分の使命が何なのか理解できていなかったようだ。クライアントに驚くほどの金額を負わせることになったと思う」と語った。
ABCニュースによると、ハバ氏は有名ファッションブランド、マーク・ジェイコブスでマーチャンダイザーとして2年間働いたのち、ペンシルベニア州にあるロースクール「Widener University Commonwealth Law School」で法律を学んだ。2011年に同校を卒業し、当時ニュージャージー州高等裁判所の判事だったユージーン・コーデイ・ジュニア氏のもとでロークラークを経験。その後の8年間、2つの法律事務所で弁護士を務め、2020年から民事と商事法務専門の弁護士として、個人事務所を開業した。
トランプ氏とは、ニュージャージー州ベッドミンスターにあるゴルフクラブの会員だった頃に知り合ったという。チャンスが訪れたのは2021年。それまで駐車場会社の法務顧問程度の経験しかなかったハバ氏は、ニューヨーク・タイムズと記者ら、姪メアリー・トランプ氏に1億ドルの損害賠償を求める民事裁判を任された。
タイムズとその記者に対する訴訟は「憲法上不適格」とされ、最終的に棄却された。さらにニューヨーク郡裁判所の判事は今年に入り、トランプ氏とハバ氏に、ニューヨーク・タイムズとその記者3人へ訴訟費用として約40万ドルを支払うよう命じた。
2022年、トランプ氏はハバ氏を主任弁護人に据え、ロシア捜査のでっちあげにFBI幹部と協力したとしてヒラリー・クリントン氏らを提訴したが、フロリダの連邦地裁判事はこれを却下。「政敵への復讐のために法廷を利用した」と非難し、トランプ氏とハバ氏に対して、93万ドルの支払いを命じた。
ハバ氏は現在、キャロル氏の裁判のほかに、今月審理を終えたニューヨーク州の司法長官との訴訟にも加わっている。
昨日の評決では、法廷の外に集まった報道陣を前に、「みなさん、司法制度への違反が起きている」と判事を非難。「ただちに上訴する。このばがげた陪審に不満だ」と声を荒げた。「われわれは、法廷に入る前からあらゆる弁護を剥奪された。トランプ氏は出廷し、証言台に立って裁判官と対峙した。私はトランプ氏とともに立てたことを誇りに思う」と語った。
「トランプ氏の代理人を務めることについて、考え直すつもりはない」とも宣言したが、法的費用が重くのしかかるトランプ氏の本音はどうだろうか。