1日午後、前日に起訴が報じられたトランプオーガニゼーションの弁護士とアレン・ワイセルバーグ最高財務責任者(73)は、マンハッタンの刑事裁判所に出廷し、無罪を主張した。
同日公開された訴状によると、検察は、トランプオーガニゼーションとワイセルバーグ氏を詐欺行為の画策や共謀、脱税、業務記録の改ざんなど複数の罪で起訴した。ワイセルバーグ氏に対する訴因は、これに重窃盗などが加わり、15件となっている。
検察は、トランプ・オーガニゼーションとワイセルバーグ氏は2005年から、本人と他の幹部に「帳簿に載らない」方法で報酬を与えるスキームを画策し、受益者らは収入の相当な部分を「間接的で偽装された方法」で受け取ったと説明。このスキームは、報酬を過少申告し、納税額を本来よりも大幅に減らすことを意図したものだと主張した。
最大の受益者はワイセルバーグ氏本人で、176万ドルの「間接的な従業員報酬」を受け取り、約90万ドルの税金の支払いを逃れた。これには会社から提供された無料のアパートやベンツのリース、家具、孫の学費などが含まれる。
さらにワイセルバーグ氏は、このスキームから、税金の還付を受け取っていたほか、複数年にわたって、ニューヨーク市に暮らしていたことを税務当局に隠していた。
トランプ氏の「兵士」ワイセルバーグ氏とは
2018年にはじまったマンハッタン地検の捜査は、このほかに、トランプ氏と性的関係を持ったとされる女性2人に対して2016年の選挙期間中に支払われた金や、ニューヨーク郊外の不動産に関して受けた税優遇措置、ニューヨークの税務当局に申告したマンハッタンの物件の資産価格に不当性がなかったかなど、幅広い捜査を進めている。
検察がワイセルバーグ氏に焦点を当てたのは、捜査協力を得るためとみられている。起訴されることで強い圧力の下に置かれたワイセルバーグ氏がトランプ氏を裏切るのか、今後注目されている。
ニューヨークタイムズによると、ワイセルバーグ氏はペースカレッジで会計を学び、教師や小規模の金融会社での勤務を経て、1973年からトランプ氏の父フレッドの元で働きはじめた。この数年後から夜や週末を使って、トランプ氏のプロジェクトを手伝うようになり、1986年にはフルタイムでトランプ氏と働くことになった。当初、ワイセルバーグ氏のポジションはコントローラーだったが、トランプ氏はCFOに据え、トランプ・オーガニゼーションの会計部門の設置、プロパティのファイナンシングや管理、企業およびトランプ氏個人の納税申告など幅広い役割を任せていった。
過去数十年にわたって、ワイセルバーグ氏の生活は会社やトランプ氏と不可分となっていったという。ワイセルバーグ夫妻は、子育てを終えた後、マンハッタンのウエストサイドにあるトランプブランドのビルに無料で数年間暮らし、さらにトランプ氏が暮らしているフロリダのリゾート施設「マールアラーゴ」からほど遠くない場所に家を購入し、トランプ氏のジェット機で週末に行き来していた。息子のバリー氏は、トランプオーガニゼーションが市の契約のもとで運営をしていたセントラルパークのウォルマン・スケートリンクの管理をする会社で働き、次男のジャック氏は、トランプ氏への最大の貸し手であるラダー・キャピタルに勤務している。
まじめな勤務態度で知られ、朝から晩まで常に働き通しで、休暇をほとんどとったことがないほどだという。ボスに忠実で、良い知らせがあれば、トランプ氏の元に走って報告に向かうほどだった。元社員は「いつもドナルド・トランプに印象づけようとしていた」と述べているほか、元幹部は「アレンは兵士」で「ドナルドが彼に望むことをするのに長けていた」と話している。
トランプ氏にとっての重要性は給与面に反映されている。2007年から2017年の収入は年平均80万ドルで、2018年の収入は97万7,000ドルだった。トランプ氏がホワイトハウスに移った後、トランプ氏の家族以外で、唯一経営を託された人物だった。
長男のバリー氏の元妻で、捜査にも協力しているジェニファー氏は、ワイセルバーグ氏を寝返らせるのは困難だと指摘している。ジェニファー氏は3月、ニューヨーカーのインタビューに「彼は妻よりも、ドナルドに思い入れと愛情を抱いている」と説明。「彼にとってのすべては、”ドナルドは今日は私を気に入ってくれているか?”ということ。これが彼の人生すべてであり、中心だ。彼は夢中になっている。ドナルドにとってはビジネスだが、アレンにとっては恋愛なのだ」と話している。