沿岸警備隊の元司令官、ポール・ツークンフト氏はワシントンポスト紙の取材に、危険なツアーを運営したオーシャンゲート社に政府への弁済責任は発生しないと語った。
同氏は「民間人が出かけた先でボートが沈没したのと違いはない」と述べ、「われわれは現地に行って回収する。後から請求書をつきつけるようなことはない」と話した。
一方、事故が新たな法規制につながる可能性を指摘。1912年のタイタニック号沈没事故の後に救命艇の数に関する規制が変更になった例などがあるとした。
オーシャンゲートのタイタンには、就航前から、安全性の問題を指摘する声が上がっていた。
2018年に労働安全衛生局に内部告発を行い、同社から訴えられた元従業員デビッド・ロックリッジ氏は、同年提出した反訴状の中で、安全性に関する再三の警告にもかかわらず、幹部らは措置を講じるどころか、反対に自分が解雇されたと主張した。
マリン・オペレーション・ディレクターとして「潜水中または海上での乗員乗客の安全の確保」を任務としていたロックリッジ氏は、極度の深海への到達を目指すものとしては異例のカーボンファイバーで造られた船体に「非破壊検査」が実施されていないことに懸念を抱き、是正措置を講じるよう訴えたが、聞き入れられなかった。「料金を支払う乗客は、実験的設計や船体の非破壊検査の欠如、潜水艇内に危険な可燃性物質が使用されていることを知らず、また知らされることもなかった」と指摘した。
同年、海洋技術協会の有人潜水艇委員会の専門家38人も、認証機関による検査を受け、安全基準を満たしていることを確認するべきだとしたが、オーシャンゲートのストックトン・ラッシュCEOは、業界標準がイノベーションを阻害しているなどと反発し、聞き入れる姿勢を示さなかった。
ラッシュ氏は昨年、YouTubeのチャンネルで、「私は革新者として名を残したい。マッカーサー将軍は、ルールを破ったことで記憶に残ると言っていたと思う」と信条を語っていた。「これを造るのに一部のルールを破った。私のロジックと優れたエンジニアリングを背景にルールを破った。カーボンファイバーとチタン。それをやらないルールがあるが、私はやった」と述べていた。