ウディ・アレン(Woody Allen)監督とグラヴィエ・プロダクション(Gravier Productions)は7日、アマゾン・スタジオ(Amazon Studios)とアマゾン・コンテンツ・サービス(Amazon Content Services)に対し、4作品の契約を破棄したとして、6800万ドル(約75億円)から7300万ドル(約80億円)の支払いを求め、ニューヨーク州南部連邦地方裁判所に提訴した。
訴状によると、アマゾンは、映画「レイニー・デー・イン・ニューヨーク」(A Rainy Day in New York)が完成後6ヶ月以上経過していたにもかかわらず、公開を拒否し、不明瞭な理由によりプロジェクトを停止したという。残り3作品についても契約を解消すると告知した。
「レイニー・デー・イン・ニューヨーク」には、ジュード・ロウ(Jude Law)や、セレーナ・ゴメス(Selena Gomez)が出演しており、アレン氏と投資家は制作費に2000万ドルの資金調達を行った。しかし、アマゾンは、最低支払額の支払いを拒否したため、アレン氏らには900万ドル(約9億9000万円)の未払いが生じたという。
アレン氏側は、「アマゾンは、”25歳の人物”によるウディ・アレンへの根拠のない疑惑を引き合いに出し、実行に移そうとした。しかし、その疑惑は、アマゾンと4作品の契約を締結する前、既にアマゾンに(及び公に)知られており、アマゾンが契約を解消するための根拠はない。」と主張。
90年代の性的虐待疑惑に再び注目
アレン氏には、1992年養女ディラン・ファロー(Dylan Farrow)さんへの幼児性的虐待疑惑が浮上した。警察による捜査が行われたが、不起訴となっている。アレン氏は、当初から一貫して疑惑を否定し続けているが、2016年ディランさんの兄弟でありジャーナリストのローナン・ファロー(Ronan Farrow)氏がハリウッドレポーターに掲載したコラムや、#MeTooムーブメントにより再び世間の注目を浴びるようになった。
#MeTooムーブメントの最中である2017年12月、アマゾン役員のジェイソン・ロペル(Jason Ropell)氏とマット・ニューマン(Matt Newman)氏はアレン氏の代理人と面会した。
2人は、アレン氏に対する疑惑は、アマゾンに損害を及ぼすと述べたという。当時、アマゾンにも、ハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタイン氏との関連や、元アマソン・スタジオの制作トップ、ロイ・プライス(Roy Price)氏によるセクハラ事件で問題が浮上していた。
2018年1月、アマゾン相談役のエージェイ・パテル(Ajay Patel)氏から、「レイニー・デー・イン・ニューヨーク」の公開を2019年まで延期したいと申し出があり、アレン氏はそれを承諾した。
その後、パテル氏は、残り4作品の契約解消を告げる通知書をアレン氏宛に送付した。そこには、アマゾンは、今後どの作品についても国内外で配給もしくは使用する予定はないと記されており、契約解消の理由については明記されていなかったという。
その後、アマゾン側の代理人が、アレン氏に対する新たな疑惑や、議論の的となる発言、一流タレントがアレン氏との仕事を拒否する例が増加するなど続発する出来事により、契約が履行不可能になったとして、正式に契約解除を通知した。
アレン氏は、最低支払額の受け取りやプロモーションが失敗に終わっただけでなく、業界の人々との仕事や、外部投資家と外国の配給会社へのコミットメントが果たせないなど、相当の損害を被ったと述べた。アマゾンは、善意かつ公正な取引という黙示の了解に違反し、アレン氏を巻き込み映画ビジネスにおける価値を高めることで、不当な形で強化されてきたと主張している。
アレン氏は訴えで、損害や弁護士費用に加え、4作品から生じる最低支払額を含め、6800万ドル(約75億円)から7300万ドル(約80億円)の損害賠償支払いを求めている。
ハリウッドレポーターは、アマゾン側の弁護団は、目的の履行不能や、当事者が契約を結ぶための原理原則を弱体化させる「予期せぬ出来事」に関する法原理を用い、答弁を行うだろうと推測する。アレン氏に対して再浮上した疑惑が、対象となるかが問われるだろうと述べた。
アマゾンとウディ・アレンの関係
2010年にテレビ番組の配給を始めたアマゾンは、2014年にアレン氏と『6つの危ない物語』(Crisis in Six Scenes)を製作しストリーミング配信した。
映画作品では、これまでに『ワンダー・ホイール』(Wonder Wheel)と『カフェ・ソサエティ』(Cafe Society)2作品を公開してきた。
訴状では、ウディ・アレン氏と最初に契約を交わしたプロデューサーのロイ・プライス氏は、「アマゾンは、ウディ・アレンの残りのキャリアにおける”ホーム”となるだろう。」と語っていたという。しかし、プライス氏はセクハラ疑惑を問われ2017年10月にアマゾン・スタジオトップの職を辞任した。
Varietyによると2016年2月、『カフェ・ソサエティ』製作発表の際、アレン氏は「全ての関係の始まりのように、多くの希望、お互いの愛情、真なる信用があります。訴訟は後からやってくる。」と現在の状況を暗示するような声明を発表している。