ウクライナのゼレンスキー大統領は、ジャーナリストらから反対の声が上がっていたメディアに関連する法案に署名した。
The Hillによると、署名を行ったのは先月29日で、施行されることで、政府と国会議員によって任命される国家テレビ・ラジオ放送評議会が、国内のメディア組織やジャーナリストに対して広い権限が与えられることになるという。
ニューヨークタイムズは、評議会の権限をオンラインや印刷媒体のニュースメディアに拡大するものだと説明。最終版以前の草案には、規制当局が、裁判所の判決なしに、報道機関に罰金を科したり、免許取り消したりできるほか、オンラインニュースサイトを一時的に遮断する権限、SNSやGoogleなどの検索大手に、コンテンツの削除を要求する権限も与えられていた。
ジャーナリストの団体からは、撤回を要求する声が上がっていた。欧州ジャーナリスト連盟は今年7月、「評議会に、恣意的で不均衡な権限を与える」と非難。「政府によって完全にコントロールされた当局による強制的な規制は、最悪の権威主義体制にふさわしい」としたほか、「メディア規制は政府から独立した機関が行うべきであり、その目的はメディアの独立であって、メディアのコントロールではない」と訴えた。
当局側は、法案はEU加盟の条件を満たすためであり、ロシアのプロパガンダと戦う事を意図したものであると、正当性を説明している。ただし、同連盟は「ヨーロッパの価値観に反する多くの条項」が含まれていると批判し、「このような規定を適用する国家は、EUにふさわしくない」と主張しているという。
ウクライナ全国ジャーナリスト組合は、議会で法案が可決された先月13日に発表した声明で「わが国の言論の自由が脅かされている可能性があることを宣言せざるを得ない」と表明した。法案の検討会議から、批判的なジャーナリストらが排除され、「公開放送もされず、透明性のない方法で開催された」とし、「新バージョンの法案は事前に公開されず、主要なステークホルダーや市民との議論もなかった」と検討プロセスに意義を唱えた。さらに、自由選挙と報道の自由は、ロシアの独裁体制と自国を分つ重要事項だとした上で、ウクライナが勝利するまで、審議を延長するよう要求した。
ちなみにゼレンスキー政権が法案の作成を命じたのは、政権が誕生した2019年だった。ゼレンスキー大統領は当時「ジャーナリストは必要ない」と主張し、大統領府は、国民と「直接」のコミュニケーションをはかることができると述べるなど、メディアに対立的な姿勢を示していたという。